記録委員・記録担当になったら自施設の状況・課題を把握する
Point①まずは自施設・自部署の「看護記録の状況」を把握する
看護記録を整えるために、まず実施したいことは「自施設の看護記録の現状を確認し、見なおす」ことです。看護記録の見なおしは、看護管理者、看護記録委員や部署の記録担当(リンクナース)が担うことになるでしょう。確認するポイントを以下にまとめます。
①看護記録基準はあるのか、ある場合は見なおしが必要か
②看護記録基準に沿った記録ができる教育体制は整えられているか
③看護記録基準に沿った記録ができているか、監査する体制はあるか
④看護記録が分析できる形となっているか、分析しているか
⑤看護記録は効率的に記載できているか
現在、ほとんどの病院では看護記録基準があると思います。しかし、もし自施設に看護記録基準がないのであれば、日本看護協会の『看護記録に関する指針』に沿って、自施設の記録の状況を確認するとよいでしょう。そこから、自施設・自部署の課題がみえてきます。
看護記録に関する課題を図1にまとめます。
課題は「個人の問題」「施設の問題」に分けて考える
個人の問題に関しては、継続的に教育を行うこと、形だけではなく適切な監査を行って、フィードバックを重ねていくことが重要です。
施設の問題に関しては、看護記録の構造や、カルテとの関連性を理解し、1つずつ着実に改善を重ねていくしかありません(図2)。すべてを一気に解決する魔法のようなシステムやツールは、残念ながら存在しないためです。
Point②看護記録に関する「用語」を正しく理解する
アセスメント:収集した情報から看護上の問題点を分析すること
アセスメントとは、対象(患者・家族)の状態・状況を明らかにするうえで必要となる主観的データと客観的データを収集し、それらを統合・分析することで、対象を取り巻く看護上の問題点を理論的に評価する一連のプロセスです。
当院では、地域連携・多職種連携の視点を重視した PILE MAP(ペイルマップ【図3】)という概念図をもとにアセスメントの視点をまとめ、看護師が行うスクリーニング・アセスメントと、チームや多職種が行うアセスメントの関係性を整理し、その項目を「患者プロフィール(プロファイル)」画面に設定しています。そして、看護師のみが使用していた看護データベースを廃止し、患者プロフィール画面に「患者のアセスメントに使用する基礎情報」を多職種が記載しています。
PILE MAP(patient information link elements)には「重なり合う地図」という意味があります。すべての情報は地域につながっていることと、患者情報の連携する要素が重なり合う視点を示す図です。
プロブレム:アセスメントで分析した「看護上の問題点」
プロブレムとは、アセスメントの結果、対象の疾患や状態の変化によって生じている(または生じる可能性のある)健康上の問題を、看護の視点で明らかにしたものです。
NANDA を用いた看護記録の場合「プロブレム=看護診断ラベル」です。
看護計画:アセスメントに基づいて立案する「看護活動の計画」
看護計画とは、看護の対象者の特性に応じた看護を行うために、看護上の問題を解決する目的で行う看護活動の計画を記述したものです。
当院の看護計画には、以下の2種類があります。
①標準看護計画:疾患別看護ケア基準(HCbooks[→本書p.34])やクリティカルパスなど、あらかじめ患者目標と目標に対する看護介入がセット化されたものから選択し、立案するもの
②標準看護計画には該当せず、患者の症状や特性別に患者目標と看護介入を立案する方法
看護計画に使用する患者目標や看護介入項目は具体的かつ評価可能な表現で定め、患者・看護師の間で共有します。また、多職種と協働し、共通の目標を達成するために、各職種が果たすべき役割行動と責任の所在を明確にすることも必要です。
クリティカルパスは「患者状態と診療行為の目標、および評価・記録を含む標準診療計画書であ
り、標準看護計画の一部が反映されています。クリティカルパスと標準看護計画があるならば、これらに用いる用語は同じ用語になるように整える必要があります。
Point③看護記録の「形式」を正しく理解する
経過記録:場面によって適切に使い分けるのがコツ
経過記録とは、対象の意向や訴え、健康問題、治療・処置、看護実践などの経過を記載したものです。
経過記録は、叙述型記録とフロー型記録の2つに大きく分けられます。多くの医療機関では、これら2つの記録方式を組み合わせて使用しています。
▶叙述型記録は、定められたフォーマット(形式)で記載する
叙述型記録は、急変時や心理的・行動的問題など、データベースやオーバービューなどへの標準的な記載が困難な場合に使用されます(表1)。患者の状態や看護ケアの内容を文章形式で時系列に沿って記述する方法です(図4)。患者の状態や看護師の観察、実施したケアなどを詳細に記述できること、SOAP形式やフォーカスチャーティングなどの手法が用いられることが特徴です。
叙述型記録は「効率化の障害」とみなされて敬遠されがちです。しかし「イレギュラーな事象」をゼロにするのは不可能なので、書かねばならない場面は必ず出てきます。
▶フロー型記録はオーバービューとも呼ばれる
フロー型記録は、あらかじめ決められた項目について、一定期間の経過を一覧表形式で記録する方法です(図5)。バイタルサインや処置・投薬などの定型的な情報を簡潔に記録できること、患者の状態の変化を視覚的に把握しやすいこと、選択リストなどを用いることで記録の効率化を図ることができ
ること、患者の経過を一覧で確認できることが特徴です。
要約(サマリー):「誰が読んでも理解できる」ように記載する
要約は一般的にサマリーと呼ばれます。サマリーには2種類あります。
①入院中に実施した医療行為や看護ケアの計画や評価をまとめたもの
②次のケアの担い手に引き継ぐべき医療行為や看護ケアをまとめたもの(急性期の病院から回復期の病院や訪問看護ステーションなどへ提供される情報をイメージするとわかりやすい)
サマリーを記載する場合は、略語の使用を控え、次のケアの担い手に医療行為や看護ケアを確実に引き継ぐことが重要です。
●当院ではクリティカルパス適用で、パス通りに経過した患者は、サマリーの記載は不要としています。
●次のケアの担い手:他の医療機関・訪問看護ステーションなど
(村岡修子)
- 1)厚生労働省:電子カルテシステム等の普及状況の推移.https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000938782.pdf(2024.11.7 アクセス).
2)厚生労働省:医療 DX について.https://www.mhlw.go.jp/stf/iryoudx.html(2024.11.7 アクセス).
看護記録を整える
NTT東日本関東病院看護部記録委員会 著
相馬泰子 監修
村岡修子 編集
B5・144ページ、定価:2,860円(税込)
照林社
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