がん終末期に起こるせん妄に対しては、機能低下などの弊害が伴います。終末期における拘束のリスクと、環境調整や薬物療法など、身体的拘束に変わる具体的な支援方法を解説します。
「がん終末期ケアの“やってはいけない”」の連載まとめはこちら
是非を考えずに身体的拘束を行ってはいけない
〈理由〉科学的根拠はない。かえって転倒事故が重大になったり、ご家族の自責感を増大する恐れがあるから
身体的拘束が効果的であるという科学的根拠はありません。
にもかかわらず、ADLが低下し予後が短い月単位と言われた患者さんに、身体的拘束が必要になってしまうのはどんなときでしょうか。
身体的拘束の弊害とは?
終末期がん患者さんにおいて、せん妄は85~90%に生じ、そのうち30~50%が回復する一方で、50~70%は回復しないまま死亡に至るといわれています。そして、終末期せん妄を体験したご家族の70%がつらい体験と感じています1。
せん妄状態は見ているご家族にも多大なストレスがかかる一方、患者さん自身にとっては、過活動によるベッドからの転落や転倒による骨折などのリスクがあります。そのため、医療現場においてはやむを得ず抑制(身体的拘束)が検討される場合があります。
しかし、身体的拘束には表1のような弊害があり、2024年度診療報酬改定では身体的拘束最小化の取り組みが強化されました。また、介護施設においてはすでに1999年に厚生労働省令で基準が示されてから行われなくなってきており、2024年には厚生労働省が『介護施設・事業所等で働く方々への身体拘束廃止・防止の手引き』を発行しています2。
まずは、身体的拘束が患者さんに与える影響についてスタッフ全員がカンファレンスなどで話し合い是非を検討していくことが大切です。
表1 身体的拘束の弊害
●転倒事故の重大化
力を振り絞って動こうとするあまり、かえって転倒事故が重大化する
●機能低下
身体的拘束により、残された機能の低下を招く可能性がある
●尊厳の低下
精神的に傷つき、尊厳の低下を招く恐れがある
終末期せん妄への対応は?
せん妄の原因はさまざまです。まずは、せん妄の原因を評価し、回復可能かどうかを医学的に判断することが重要です。
回復可能なせん妄と診断された場合は、原因の除去、環境調整、ご家族のサポート、薬物療法などを検討します(具体的な対応は後述)。
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