40歳頃から少しずつあらわれはじめる、更年期の諸症状。患者さんだけでなく、看護師さん自身も不調に苦しめられることが少なくありません。そこで本記事では、杏林大学医学部付属病院 産婦人科の教授であり、婦人科腫瘍学を専門とする森定徹医師にインタビュー。同院では、更年期の諸症状に悩む患者さんのために「すこやか女性外来」を開設しています。女性ホルモンの一種である「エストロゲン」のはたらきから、多忙な看護師さんが変化の多い時期をどう乗り切っていくべきかまで、幅広く教えていただきました。

森定 徹もりさだ とおる

杏林大学医学部 産科婦人科学教室  教授

慶應義塾大学医学部卒業後、慶應義塾大学医学部など複数の施設で産婦人科診療に従事。2025年4月杏林大学医学部産科婦人科学教室臨床教授となる。
日本産科婦人科学会専門医・指導医、日本婦人科腫瘍学会婦人科腫瘍専門医・指導医、日本産科婦人科内視鏡学会腹腔鏡技術認定医、日本がん治療認定医機構 がん治療認定医、日本臨床細胞学会細胞診専門医・指導医、日本遺伝性腫瘍学会 遺伝性腫瘍専門医

女性の健康を守るエストロゲン

 エストロゲンは、卵巣から分泌される主要な女性ホルモンのひとつ。女性らしい体型を形作ったり、妊娠に向けて子宮内膜を厚くし、月経をコントロールしたりするはたらきがあります。それ以外にも、コラーゲンの産生を促して肌にハリとツヤを与える、骨や関節、血管の健康を保つ、脳の血流を増やして活性化させる、自律神経に作用して心身のバランスを整えるなど、エストロゲンの役割はさまざま。女性の生殖と健康に幅広く関わる、非常に重要なホルモンです。

エストロゲンの大切な働きについてのイラスト

更年期世代に起こる体調の変化

 しかし40歳を過ぎる頃になると、エストロゲンの分泌量は急激に低下。閉経前後の10年間にあたる「更年期」と呼ばれる世代になると、さまざまな身体の変化が起こりはじめます。

 顔や身体が突然熱くなって汗が吹き出すホットフラッシュをはじめ、気分の落ち込みやいらだち、倦怠感、寝付きの悪さなど。エストロゲンには悪玉(LDL)コレステロールの生成を抑制し、肝臓での回収を促す作用もあるため、分泌量が下がることで動脈硬化のリスクも上がります。動脈硬化は心筋梗塞をはじめとする命に関わる病気に直結するため、注意しなければなりません。

 また、悪性腫瘍や子宮筋腫などの治療・手術によって卵巣を摘出した場合にもエストロゲンは分泌されなくなるため、20代〜30代であっても同様の症状があらわれることがあります。

症状を緩和するホルモン補充療法(HRT)

 更年期の諸症状は、疲れや精神的なストレスによって引き起こされる症状とよく似ています。そのため治療を行う前に、患者さんからしっかりと聞き取りをして、原因を見極めることが重要です。

 エストロゲンの分泌量低下によって症状が引き起こされている可能性が高い場合には、ホルモン補充療法(HRT)を行います。その名の通り減少したエストロゲンを補う治療法で、主に内服薬を処方します。

 ただし、HRTには副作用があり、すべての患者さんに行えるわけではありません。卵巣の摘出によってエストロゲンの分泌量が低下したがんサバイバーの患者さんにHRTを行うと、がんの治療の妨げになってしまうことも。その可能性がある場合は、代替治療を検討します。

がんサバイバーの患者さんも行えるセルフケア

 不規則な生活によって、更年期の諸症状が悪化する場合もあります。やはり栄養バランスのいい食事や適度な運動、十分な睡眠は健康を保つための基本。加えてリラックスできる時間を確保することも、更年期の女性には心がけてほしいところです。

 がんサバイバーの患者さんにとっても、規則正しい健康的な生活は欠かせません。再発リスクを抑えるために、たばこやお酒を控えることも推奨されています。加えて、また近年は、体内でエストロゲンに似たはたらきをする「エクオール」という成分も注目されています。

 エクオールは、大豆イソフラボンの一種である「ダイゼイン」が、腸内細菌のはたらきによって変化したもの。エストロゲンとよく似た構造をもっていますが、その効果はエストロゲンの1/100~1/1000程度と言われており、非常にマイルドです。そのためがんサバイバーの方をはじめ、HRTを行えない患者さんも、セルフケアとして取り入れることができます。

森定徹先生

 大豆を多く摂取している方ほど、乳がん再発のリスクが低いなどのエビデンスもあることから、病気の治療中であっても大豆の摂取を控えるように指導する先生は少ないかと思います。ただ、体内でエクオールを産生できるのは、日本人の2人に1人程度。そのためエクオールを直接摂取するために、サプリメントという選択肢もあります。

 エクオール含有のサプリメントを飲み始めた患者さんからは、ホットフラッシュや倦怠感などの症状が緩和したという声をよく聞きます。健康のための習慣として毎日の生活に取り入れやすいということもあり、「ホルモン薬に抵抗がある」という更年期世代の患者さんにも好評です。ただし、がんに限らず、何らかの病気の治療中の場合は主治医の指示に従ってください。

更年期症状は個人差が大きい

 更年期の症状やその程度は個人差が大きく、ほとんど変化を感じない方もいれば、仕事や人間関係に支障をきたすほど重い場合もあります。そのため「みんな乗り越えているんだから」と、辛さを抱え込んでしまう患者さんも少なくありません。近年は少なくなってきましたが、「更年期」という言葉に抵抗感を覚える方もいらっしゃいます。

 そのため、看護師さんが更年期世代の患者さんに聞き取りを行う際には、「最近眠れていますか?」「ちゃんと休めていますか?」といった、他愛もない会話からはじめるといいでしょう。

看護師さんも自分を労ることを大切に

 日本の看護師さんは、マルチタスクで非常に多忙な労働環境にあります。そのため、日々患者さんの体調不良に耳を傾けている一方で、ご自身のケアは後回しにしてしまいがち。忙しいなかでもできるだけ身体の声に耳を傾け、不調があればひとりで抱え込まず、周囲の方にも伝えておくといいでしょう。
 
 加えて、更年期に起こる変化についてのヘルスリテラシーを身につけ、心の準備をしておくことも必要です。正確な情報にアクセスしやすい職業だと思いますので、40歳を迎えたら改めて調べなおしてみてください。また、職場で重要な立場にある40代・50代の看護師さんが、率先して受診・検診のための休みを取ることも大切。ご自身の健康を守るだけでなく、みんながはたらきやすい環境づくりにもつながります。

エクオールは体内でも産生できる?

 体内で大豆イソフラボンからエクオールを産生できる人は、更年期症状が軽いと報告されています。日本人女性(平均49.7歳)の場合、エクオール産生者は約50%。産生者であっても一時的に作り出せなくなる場合があるため、更年期の諸症状に悩んでいるのなら、エクオールそのものを含むサプリメントの摂取がおすすめです。

エクオールを産出できる人の割合

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