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おさえておきたいこと

ブレスト・アウェアネスとは
●自分の乳房を日ごろから意識する習慣をもって生活することを意味する造語
●日ごろから乳房の変化を意識し、異常を感じた際には検診を待たずに受診することが重要

日ごろから乳房へ意識を向け、 乳がん早期発見へ

 ここ最近、ブレスト・アウェアネスという言葉を耳にする機会が増えてはいませんか? ブレスト・アウェアネスとは、「breast:乳房+awareness:意識」という言葉から成り、自分の乳房の状態に日ごろから関心をもち、乳房を意識して生活することを意味します 1

 最近の統計によると、女性の9人に1人が生涯のうちに乳がんになる時代となっています2

 ブレスト・アウェアネスは、単に乳がん検診の受診推奨や、セルフチェックという意味だけではありません。自分の乳房へ日ごろから意識を向けることで、その変化に気づき、乳がんの早期自覚・発見につなげることが目的です。
 本稿ではそのポイントと、ブレスト・アウェアネス啓発の取り組みについて紹介します。

34歳以下でかかる若年性乳がんを見つけるためにも

 まず、ブレスト・アウェアネスで重要な基本習慣について解説します。
 乳房の“変化”は、急に気づけません。日ごろから自分の身体を知っておくことの重要性を示しています。

ブレスト・アウェアネスの基本習慣

ポイント①普段の自分の乳房の状態を知る(セルフチェック)

●日ごろから、入浴時などに自分の目で見て・触れて・つまんで、異変がないか意識する習慣をつける
●月経前は胸が張ってしまうことが多いため、月経後のタイミングがよい
●月経周期が不順だったり、長かったりする場合は、毎月日にちを決めて行うとよい

ポイント②乳房の変化に気づけるようにする

●以下のような、“受診したほうがよい症状”を把握しておく
・乳房の腫瘤(しこり)
・乳房のひきつ れ・くぼみ
・乳房の痛み
・乳頭分泌物
・乳房や乳頭周囲の皮膚のただれ  など

ポイント③異常を感じたら、次の検診まで待たずに受診する

●乳房の異変がすべてがんとは限らないが、異変を感じた段階で早めに受診することで、万が一がんだったとしても、早いうちに診断・治療につなげることができる
●次の検診まで待ってしまうことで、治る可能性のあった”がん”が進行してしまい、治療による心身や経済的な負担が重くなる懸念がある

ポイント④40歳を過ぎたら2年に1度、乳がん検診を受ける

●乳がんにかかりやすい年代は、40〜60歳代がピークである
●日本では、40歳以上の女性に対して2年に1度のマンモグラフィーによる乳がん検診が推奨されている
●自治体からがん検診のお知らせが届いたときや人間ドックと同じタイミングなど、定期的に乳がん検診を受けるようにする ※乳がん検診は症状がない場合が対象となる。何らかの症状を自覚した場合は、すみやかに医療機関を受診する

(文献1を参考に作成)


 また、乳がん検診は40歳以上の女性に推奨されていますが、ブレスト・アウェアネスは若年性乳がん(34歳以下でかかるがん)の早期発見にも役立ちます。
 
 若いうちから自分の乳房の状態を把握し、異変を感じたら受診行動につなげられるよう、ヘルスリテラシーを高めることが大切です。 家族や大切な人とのコミュニケーションとして、ブレスト・アウェアネスを話題にしてみるのもよいでしょう。

男性でもかかる乳がん

 世間では女性特有の病気と思われがちですが、まれに男性乳がんを発症される方もいます(乳がん全体の約1%)。

 男性乳がんのリスク因子は、「乳がんの家族歴」「胸部や乳房への放射線治療歴」「女性ホルモン量が多い」などが挙げられます。 「男性だから乳がんではないだろう」といった思い込みはせず、異変を感じたら受診行動に移せるようにしておくことが大切です。

おさえておきたいこと

ブレスト・アウェアネスと社会
●毎年10月の「ピンクリボン月間」をはじめ、乳がん関連の各種学会・患者支援団体・企業などが啓発活動を行っている

充実した仕事に取り組むためにも予防行動を

 ブレスト・アウェアネスを啓発する活動も、社会全体で近年活発になっています。 日本対がん協会などはピンクリボンフェスティバルを主催しており、毎月19日を『ピンクの日』とすることを提唱しています3
 そのねらいを「ピンク色にまつわるアクションを起こすことで、セルフチェックや乳がん検診受診勧奨などの『ブレスト・アウェアネス』を推奨する」こととしています3

 最後に、読者の皆さんご自身は、普段から自分の乳房に意識を向ける習慣はついていますか?
 自治体からがん検診のクーポン券が届いたり、職域検診でがん検診のお知らせが届いたりしていても、忙しさで先延ばしにしてしまっている方も少なくないのではないでしょうか?

 ブレスト・アウェアネスを生活に取り入れることで乳がんは早期発見・適切な治療が可能です。 健康な状態で充実した仕事に取り組むためにも、ブレスト・アウェアネスをぜひ意識してみてください。

乳がん情報の筆者オススメサイト

一般社団法人 BC Tube
https://bctube.org/
●乳腺科医が、わかりやすく正確な情報発信を行っています
●YouTubeチャンネルにも、動画を定期的に投稿しています

1.BC Tube:リーフレット「今日から始める4つのアクション 自分の乳房と向き合う時間を作ってみませんか?」.
2.がん情報サービスホームページ:がん種別統計情報 乳房.
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/14_breast.html(2024.12.4アクセス)
3.日本対がん協会 ピンクリボンフェスティバルホームページ:ピンクの日.
https://www.pinkribbonfestival.jp/pink_day/(2024.12.4アクセス)
1.笠原善郎,鈴木昭彦,植松孝悦,他:令和2年度 厚生労働科学研究費補助金(がん対策推進総合研究事業)「乳がん検診の適切な情報提供に関する研究」:資料「ブレスト・アウェアネス:『乳房を意識する生活習慣』」.2021:31.
https://brestcs.org/archives/pdf/report_r2.pdf(2024.12.4アクセス)
2.国立がん研究センター 希少がんセンターホームページ.
https://www.ncc.go.jp/jp/rcc/(2024.12.4アクセス)
3.日本対がん協会:リーフレット「乳がん検診とブレスト・アウェアネス」.

この記事は『エキスパートナース』2023年2月号の記事を再構成したものです。
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