抗がん薬の副作用「下痢」について、早期性・遅発性などの分類や、原因薬剤、観察・予防・セルフケア支援のポイントを解説! 『がん専門病院に学ぶ 簡単にわかる・現場で役立つ がん薬物療法看護 はじめてBOOK』の試し読み記事をお届けします。
●イリノテカンなど下痢が高頻度に発症する抗がん薬を把握し、リスクを想定して観察・セルフケア支援を行う。
●発症時に早期対処できるよう、連絡の重要性を伝える。
症状、出現時期
下痢の定義
便の水分量が増して泥状~水様になった状態をいう。重篤化することで脱水や電解質異常、体重減少を引き起こす。
がん薬物療法で生じる下痢は、「早期性下痢(コリン作動性下痢)」と「遅発性下痢(腸管粘膜障害性下痢)」「免疫チェックポイント阻害薬の投与に伴う下痢(自己免疫性の腸炎)に分類されます(表1)。

不安などの精神的な要因、がんの腸管への浸潤、食事摂取の変化、全身状態の悪化、薬剤性大腸炎も要因と考えられ、鑑別が必要です(表2)。

原因となりやすい薬剤
下痢を高頻度に発症するイリノテカンをはじめ、原因となる薬剤(表3)を把握して、リスクに備えることが大切です。

観察ポイント
がん薬物療法時に発生する下痢は、患者のQOLを低下させます。また、症状が悪化すれば、治療をスケジュール通りに遂行できない場合もあります。
治療継続のためには疾患特性、薬剤の特徴的な副作用から下痢のリスクを予測し、症状観察を行い、早期に対処していくことが重要です(表1~4)。
表4 下痢の観察ポイント
□痢を起こしやすい治療薬剤の種類
□放射線療法併用の有無、放射線治療期間、照射部位の確認
□治療前・中・後の便の性状と量、下痢の有無と程度
□下痢に伴う症状(腹痛、悪心・嘔吐、腹部膨満感、食欲不振、全身倦怠感)の有無と程度
□水分出納量、脱水症状(発熱、口渇、皮膚乾燥、排尿量の減少、体重減少、血液データ値)
□肛門周囲の皮膚障害の有無と程度
□治療の日数と白血球の推移
□下痢に対する精神的苦痛の有無と程度
治療、看護ケア
1 予防ケア
原因となる薬剤の使用の有無、下痢リスクの要因、便の量・性状についてアセスメントを行い、早期に症状コントロールを図れるように支援します。
●下痢症状に早期に対応できないと、脱水・電解質異常・栄養状態の悪化を招き、治療の妨げになることを患者・家族へ説明し、理解を得ます。
2 下痢出現時の治療・ケア
直腸術後や腹部、骨盤に対する放射線照射などが原因で下痢症状が出る場合もあるため、注意して観察していくことが必要です。
患者自身が、自分の排便状況をモニタリングして、止痢薬の使用方法やセルフケアを継続できるように支援します。
外来治療中は、病院へ連絡する必要がある症状(表5)が判断できるように指導します。
表5 外来治療中に病院へ連絡すべき症状
下記のような場合は病院に早めに連絡し、経口抗がん薬を服用中の場合は中止して、医師の指示を受けましょう。
●発熱や激しい腹痛を伴う下痢
●24時間で7回以上の下痢(水様便)があり、止痢薬を使用しても効果がない
●血便である
●下痢が続き、食事・水分が摂れない
●下痢が続き、喉の渇き、脱力感、意識がもうろうとする
●下痢症状が出現した際、すぐに医療者へ伝え対処をすることは、“今後の治療を継続していくために重要”であることを患者・家族へ伝えましょう。
①食事療法(図1)
腸管への刺激を避け、負担を軽減できるよう、温かくて消化吸収のよい、食物残渣が少ない食事を数回に分けて摂るよう指導します。
腸管に刺激のある香辛料、アルコール類、カフェインの入った飲料、脂肪を多く含む食品、牛乳、乳製品、冷たいものなどは避けるように指導します。
白血球・好中球減少時は、生ものの摂取により腸管感染を起こす可能性があるため、生ものを
控え、なるべく加熱した食事を摂るよう指導します。
下痢による脱水予防のために、電解質を含んだ経口補水液やスポーツ飲料の摂取を勧めます。
下痢が重篤な場合は、腸管の安静を保つために禁飲食にする場合もあります。

②身体的ケア・心理的支援(図2)
頻回な排便による肛門周囲の皮膚障害(発赤、びらんなど)を予防するため、排便後には肛門部・肛門周囲皮膚を強くこすらないように拭く方法や温水洗浄便座(ウォシュレット®)の使用、撥水性クリーム(ワセリンなど)を塗布し、皮膚を保護するよう指導します。
白血球・好中球減少時は、肛門部周囲の皮膚障害が感染源となりやすいことを伝え、スキンケアが継続できるよう支援します。
下痢の持続による体力の消耗や倦怠感を緩和するため、できるだけ安静が保てるように配慮します。
不安やストレスは自律神経を刺激し、腸蠕動や粘液の分泌を亢進させ、下痢を悪化させる可能性があります。そのため、下痢に伴う不安や心配を軽減できるよう支援します。
下痢が持続することで失禁に対する不安も生じるため、おむつや尿とりパットを使用したり、ポータブルトイレを設置するなど、環境を整え不安の緩和に努めます。

●腹部を保温すると腸蠕動亢進が抑制され、腹痛の緩和や内臓の循環促進により消化吸収を促進させます。患者の好みに合わせながら、ホットパックなどで腹部の温罨法を行います。
●食べることで下痢の回数が増えることに恐怖心を抱き、経口摂取を控えてしまう患者もいます。なぜ下痢が出現しているのか説明し、可能な範囲で経口摂取が継続できるように支援します。
③輸液療法
下痢による脱水や電解質異常を生じることがあります。経口摂取が困難な場合や、強い下痢の際には輸液を行います。
●高齢者は、腎機能低下により生命にかかわることもあるため、脱水に対して十分観察し、適切な輸液を行いましょう。
④適切な止痢薬・整腸薬の使用(表6)
患者の下痢症状に対する止痢薬の使用について、医師や薬剤師と相談し、投与目的・薬剤・方法を確認しあい、熟知しておきます。
早期性下痢(コリン作動性下痢):抗コリン薬が有効です。抗コリン薬は、腸管のれん縮を改善し、亢進した腸管運動、腸分泌を抑制する作用があります。
腸粘膜の障害による遅発性下痢:症状が軽い場合は天然ケイ酸アルミニウムなどの吸着薬を使用し、さらに抗コリン薬を併用します。強く長く続く下痢には、ロぺラミド塩酸塩(ロペミン®)を使用します。
止痢薬を使用しても持続する下痢:腸管運動抑制のあるコデインリン酸塩、モルヒネ塩酸塩・硫酸塩などを使用することもあります。
●止痢薬を使用する前に、培養検査などを行って感染性の下痢ではないことを確認します。
イリノテカン投与後の遅発性下痢:活性代謝産物SN-38による腸管粘膜損傷が原因と考えられており、β-グルクロニダーゼ阻害作用をもつ半夏瀉心湯の予防投与が推奨されています。
白血球・好中球が減少し、感染のリスクが高い場合:有害菌の侵入・増殖を抑制し、腸内異常発酵を防止する酪酸菌製剤やビフィズス菌製剤を投与します。
免疫チェックポイント阻害薬を使用している場合:Grade1であれば注意深い経過観察をしながら、投与を継続することもあります。排便回数の増加や粘液便または血便といった Grade2の場合は、投与を中止しステロイド投与など対症療法を行います。Grade3の場合は、高用量のステロイド療法、抗TNF- α抗体薬であるインフリキシマブの追加投与を検討されます。

- 1)金政佑典,里見優子:下痢.下山達,三浦里織編,がん薬物療法看護ベスト・プラクティス,照林社,東京,2020:301-305.
2)長谷川久巳:下痢.濱口恵子,本山清美編,がん化学療法ケアガイド 第3版,中山書店,東京,2020:205-214.
3)日本臨床腫瘍学会編:がん免疫療法ガイドライン 第3版.金原出版,東京,2023:58-60.
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がん専門病院に学ぶ 簡単にわかる・現場で役立つ
がん薬物療法看護 はじめてBOOK
鈴木美穂、山口正和、羽田 忍 編著
B5・224ページ
定価:2,970円(税込)
照林社
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