薬剤師の視点からの解決策

猫兄貴(薬剤師) がんの終末期では、病状が悪くなり始めると一気に崩れやすいという特徴があります。アドバンス・ケア・プランニング(愛称:人生会議)の話なども少し前にインターネットなどで話題になっていましたが、あの考え方はとても大切なことだと思っています。状態の変化が大きい病気だからこそ、元気なうちにどうするか、どんなことが必要か、それらを確認・共有し、準備することが重要だったかもしれません。

 このケースでは主治医は「よりよい治療成績」、薬剤師は「安全な治療管理」、看護師は「日々のケアや傾聴」、リハビリ科は「ADLの拡大」が、それぞれゴールになってしまっていたんじゃないでしょうか。とてもありがちですが、本当のゴールは「自宅に帰ること」で、各職種が自分たちのできることを、そこに至る道筋になるよう組みあげなければいけなかったのかなと思います。

 そうなると、「誰がゴールを設定する役割をこなすのか」という話にどうしてもなってきます。主治医やMSW、緩和ケアチームが担うことが多いかと思いますが、僕の考えでは、これについては誰でもいいんです。

 ただ、元気なうちから「どう死にたいか」について話すことはとても難しく、技術と関係構築が求められます。ですので、誰がやってもいいことだからこそ、それを誰もが当事者意識をもって取り組み、共有することが大事だと考えます。

臨床工学技士の視点からの解決策

松田(臨床工学技士) 私は医療安全管理者の立場から考えてみました。入院経過中にさまざまなシーンはあったものの、最終的には自宅に帰れる一歩手前まではなんとかうまくいっていました。この後に注視してみると、主治医との相談などのタイミングが合わない点や、退院調整がうまくいっていない点、このあたりが気になりますね。

 主治医はどのくらいの間隔で患者さんを診にいっていたのか、医師を含めた定期的なカンファレンスはされていたのか、家族は遠方に住んでいるとはいえこまめに連絡できていたのかなど、この患者さんにかかわるみんながうまくチーム形成できていなかったのかもしれません。カンファレンス実施の見直しや、他のメンバーも話しているように、カルテ上での共有は簡単にできることなので、その部分はすぐにでも改善は可能かと思います。

 看護師は常に患者さんに一番近い立場で、物事がよく見えているので、率先してチームづくりに挑戦していくのもありだと思います。もし仮に、医師に連絡してもなかなか病棟に来てくれないなどがあれば、病棟師長を巻き込んでみたり、インシデントレポートなどを利用し、患者さんに影響が出る前に、問題として挙げてみる(今回のケースであれば自宅に帰れなくなったことを問題とする)のも解決の1つの手段かもしれません。

 特にがんの終末期の患者さんの状態は予測がつきにくいことも多く、多職種でかかわるうえで、こまめに、早めに動くことが大切です。明日からでも取り組めることもありますので、うまく実践していきましょう。

今回の事例のまとめ

●状態が変わったタイミングで、こまめに患者さんに意思確認をする。
●多職種それぞれが目標を考えるのではなく、患者さんにとっての目標を考え、そのなかでそれぞれの職種でできることを最大限にサポートする。
●多職種間でやりとりする時間やタイミングにも限界があるため、カンファレンスでなくともカルテやメモなどを活用して情報共有をスムーズに行う。
●それぞれの職種が当事者意識をもって取り組む。

多職種連携のリアル【第11回】事例で検討②施設入居患者と家族に対する多職種連携(5月22日配信予定)

この記事は『エキスパートナース』2020年10月号連載を再構成したものです。
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以上の解決方法・対処例は、ケースをもとにメディッコメンバーが話し合った一例です。実際の現場では、主治医の指示のもと、それぞれの職種とこまめに連携をとり、進めていってください。