【前編】家族をケアする子どもたち:ヤングケアラー①定義と背景、現状と課題
知っておきたいヤングケアラー支援のポイント
●患者の家族状況を把握する際、「子どもがいないか」や「その状況」に注意する
●ヤングケアラーと接する際は、 ケアしていることを否定せずに「看護の対象」としてとらえ、「権利の主体」としてみる
●ヤングケアラー支援は子どもの人権にかかわる問題であり、 社会全体で早急に取り組むべきである
私たち看護職は、小児を対象とする実践現場だけでなく、成人を対象とした実践現場においても、ヤングケアラー(もしくはその予備軍ともいえる子ども)に出会っている可能性があります。
さまざまな看護の専門領域において援助対象としてきた家族のなかにいる子ども、例えば、病気や障がいをもつ親や祖父母と暮らす子ども、病気や障がいをもつ同胞とともに育つ子ども(きょうだい児)が、“ヤングケアラーかもしれない子どもたち”といえます1。
臨床看護師や訪問看護師は家族の情報を把握した際、家庭内に子どもはいないか、その状況も気に留めてください。その子どもが家族に対してのケアをしていたら、その内容把握とともに、学校生活・友人との時間を犠牲にしていないか、子どもにとって過度な負担ではないか、という視点でみていただきたいと思います。
そして退院支援などの際に、そのケアの実態に合わせて各種サービスなど適切な支援につなげるよう、行政や医療機関など関係部署との連携を図り、今ある支援を活用していくことが大切です。
ケアすることを否定せずに認めてあげるとともに、ヤングケアラーがなによりも「子ども」として「普通に」過ごせるための配慮が重要です。
『子どもの権利条約』2では、子どもの権利を大きく4つに分け、生きる権利、育つ権利、守られる権利、参加する権利として示しています。ケアを手伝う「よくできた子」「やさしい子」としてだけ見るのではなく、患者・患児と同様に看護の対象であり、権利の主体としてみていただきたいと思います。
●10代から祖母を介護した元ヤングケアラーのこえ
記憶を失い、妄想に苦しみ、不安のため家族から離れようとしなかった祖母の顔を忘れられない。僕は祖母の介護と引き換えに、友達、学業、職、そして時間を失った。
看取った後、知人からは「おばあちゃんは(孫に)介護してもらって幸せだったね」と言われたが、果たしてそうだったのだろうか。僕がほんとうにほしかったのは、僕自身の生活と祖母が幸せだと思える生活の両立だったと思う。(文献3より引用)
社会全体が「子どもの人権にかかわる問題」と認識し、ヤングケアラーが相談しやすい環境をつくっていく必要がある
英国では、ヤングケアラーの実態把握や支援、法整備に早い時期から取り組んでいます。ヤングケアラー支援組織の代表者は、「ヤングケアラーが必要としていること」として以下の4点を挙げています4。
①子どもでいること
②聞いてもらい、意見を取り入れてもらうこと(自分が社会の中で認められていること)
③話せる人がいること
④専門職に知ってもらい、理解してもらうこと
(文献4より引用)
相談しやすい環境をつくり、子ども自身が安心して誰かに話し、情報を共有できる場所が必要です。
ヤングケアラー・若者ケアラーのピアサポートグループの活動も広がっています。同じ境遇や課題をもつ仲間が、体験を語り合い、感情を共有することで、安心感や自己肯定感を得ながら、互いに支え、助け合い、問題の解決を図ることができるとされています。
図1の写真の団体では、家族の介護・世話・サポートをしている若い世代のケアラーを支援しています。

ヤングケアラーの支援は、子どもの人権にかかわる問題であり、社会全体で早急に取り組むべき事柄であると言えます。
社会の関心が高まっている一方で、ヤングケアラーという言葉が1人歩きしてしまい、当事者の望まない方向に支援が向くなどの懸念もあり、今後の動向にも注視していただきたいと思います。
- 1.青木由美恵:私たち看護職が出会ったヤングケアラー.Nursing Today ブックレット編集部編:ヤングケアラーを支える 家族をケアする子どもたち。.日本看護協会出版会,東京,2021.
2.公益財団法人日本ユニセフ協会(Unicef)ホームページ:子どもの権利条約.
https://www.unicef.or.jp/about_unicef/about_rig.html(2024.2.14アクセス)
3.一般社団法人日本ケアラー連盟:ヤングケアラー・若者ケアラー(パンフレット).2015.
4.Ben Hogbin,Alison Cross:イギリスにおける“ヤングケアラー支援“ “Winchester Young Carers”の活動から.(尼崎市講演会:家族のケアを担う子どもたち“ヤングケアラー”への支援を考える〜イギリスの支援団体の取り組みから学ぶ〜〈2019年2月23日開催〉.の講演内容)
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この記事は『エキスパートナース』2022年2月号の記事を再構成したものです。
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