この記事は『がんになった外科医 元ちゃんが伝えたかったこと』(西村元一著、照林社、2017年)を再構成したものです。
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不安な前夜、勇気をくれた「寄せ書き」。10時間を超える手術を終えて

 手術が近づくと、やはり予想以上にがんが拡がっているかもしれないという最悪の状況も頭に浮かびました。「そうなったらできるだけ早く退院して、家のことや仕事のことにさっさとけりをつけないと……」など毎晩いろいろなことが頭をよぎりました。

 しかし、奇しくも前日夜に、金沢赤十字病院の病棟スタッフが作ってくれた寄せ書きと、金沢大学附属病院手術室の顔なじみの看護師さんたちの寄せ書きが部屋に届けられ、勇気づけられるとともに、涙があふれるのを抑えることができませんでした。おかげで心が何となく落ち着き、眠剤の効果とともにいつのまにかぐっすりと眠り、手術当日を迎えました。

 結果的に10時間を超える大手術となり、術後は気管挿管されたままICUへ入室し、翌朝「西村さん」という声で目が覚めるまでの約24時間は、眠ったままでまったく何も覚えていません。みんなから「手術ひどくなかった?」と聞かれますが、少なくとも手術中からICUで起こされるまではひどくなかった、というかまったくわかりません。鎮痛剤もよく効いていたので、抜管してもらったあとも楽に呼吸ができたのを覚えています。

 そして少し落ち着いたのか、気になったのはやはり手術内容でした。主治医から「少し長くなったけれど、一応全部取りました」と聞いたときには、やはり自然と涙がこぼれました。