この記事は『がんになった外科医 元ちゃんが伝えたかったこと』(西村元一著、照林社、2017年)を再構成したものです。
当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載および複製等の行為を禁じます。
がん患者さんを、地域で支援することの重要性
これまで、大腸がんの患者さんを中心として数多くのがん患者さんの診療にあたってきましたが、時代とともに、医療者と患者さんとの関係性はかなり変化してきました。
従来、患者さんは治療がすべて落ち着くまで入院していられましたが、現在は外来で可能な治療や処置は外来にシフトされ、だんだんと在院日数が短くなっています。それとともに医療スタッフとの関係性も希薄になってきており、治療を外来で続けざるを得ない患者さんやその家族のなかには、生活と治療を両立しなければならないことにとまどっている方がいるのではないか?という疑問が湧くようになりました。
さまざまな患者会の皆さんなどに聞いたところ、やはり「退院してから、生活するうえでのさまざまな不自由さが出る」ということがわかりました。さらに、「時々浮かぶ『がんに対する不安感』について、どこに相談に行けばいいかわからない」との声も聞かれました。
そこで「生活の場」すなわち「病院の外」に、がん患者さんを支援するような施設が必要ではないかと思いはじめた頃、2010年2月に「北陸がんプロフェッショナル養成講座」が主催した市民公開講座で「Maggie’s cancer carring centre(以下、マギーズセンター)」の存在を知りました。
「マギーズセンター」との出会い
マギーズセンターとは、造園家であったマギー・ジェンクスさんの「がんとなっても病人ではなく一人の人間に戻れる、死の恐怖の中にあっても生きる喜びを感じられる家庭的な安息所がほしい」という思いがもととなり、遺志を受け継いだ人たちの手で1996年にイギリスのエジンバラで生まれた、がん患者さんのための新たな支援施設です。イギリスを中心に国内外あわせて16地域に開設され、さらに現在九地域で建設が予定されており、日本初の常設施設として「マギーズ東京」が、東京都・豊洲に完成します(編集部注:2016年10月10日に開設)。
その講座にはイギリス本国から招かれたCEOのLaura LeeさんとDirectorのSarah Beardさんに加え、秋山正子さん(現・NPO法人maggie’s tokyo共同代表理事)と田村恵子さん(マギーズセンターをモデルとした「ともいき京都」代表)も演者として来られており、今を考えると因縁めいたものも感じています。
このとき、マギーズセンターとは、自分自身のことを「単に一人のがん患者に過ぎない」と思っている患者さんに「一人の生活者であり、役割がある」ということを思い出させてくれ、そっと背中を押してくれる場所である、ということを知りました。「これだ!」と思い、その講座に参加していた、現在の「がんとむきあう会」のメンバーとなる人たちと一緒に「金沢にもマギーズがほしいね!」と夢物語のようにいろいろと話し合い、とりあえず年に1回、「金沢一日マギーの日」というイベントを始めました。それが5年前のことです。
動きはじめた矢先、「自分が」がん患者の立場に…
その後2012年1月に、ロンドンのCharing Cross Hospitalにあるマギーズセンター「Maggie’s West London」を見学する機会が得られました。
建物などの「ハード面」のみならずスタッフやボランティアなど「ソフト面」のすばらしさも目の当たりにして、「このような施設が地元にあったら、どれだけがん患者さんの支援につながるか。そのことを考えると絶対に必要である」ということ、そして漠然とでしたが「地元にこのような施設を作りたい」という思いをメンバーに伝えました。
「金沢らしいマギーズセンターのような施設」とは、どのようなものか。それを皆で考えるべくシンポジウムを開催したところ、金沢には、大きな「箱もの」を建てるのではなく、景観に合った町屋などを改装し、地域の人たちが通いやすいところに作るのが理想的ではないか、という結論になりました。
「それならば自分たちで実現できるかもしれない」という思いがメンバーの間に生まれ、いろいろ考え始めた矢先、私自身に進行胃がんが見つかり、思いがけず闘病生活に入ることになったのです。
いざ自分自身ががん患者となってみると、マギーズセンターのような場所の必要性をいっそう実感することになりました。その思いを「がんとむきあう会」のメンバーに伝えたところ、マギーズのコンセプトをもつ「金沢らしい」がん患者の支援施設「金沢マギー」を本気でまず一つ作ろうということになり、加速度的にものごとが進みはじめました。
「金沢マギー」の「常設化」に向けて
まずは患者さんやご家族のニーズを確認するために、月に2回程度、町屋を改装した施設を借りて、イベントとしての「金沢マギー」を開催するというところから少しずつ実践し始めました。
また、常設にするためには「施設づくり」と「人員確保」が不可欠です。その費用を広く募るために、「元ちゃん基金」を創設し、加えてNPO化の届け出を行いました。
今後はイベントなどを通じて認知度を上げ、ぜひ今年度中に常設施設の開設を実現したいと、メンバー全員が一致団結してがんばっています。
「マギーズセンター」のコンセプトをもつ施設は、絶対に必要だと思います。そのような施設が「病院外」にできることにより、路頭に迷いかけているがん患者さんやそのご家族が十分な治療を受けることができるようになるものと思っています。そのためにも、まず1つきちんとしたものを作りたいと考えています。
がんになった外科医 元ちゃんが伝えたかったこと【第11回】自分の生活リズムを探して
『がんになった外科医 元ちゃんが伝えたかったこと』
西村元一著
照林社、2017年、定価1,430円(税込)
ご注文・詳細はこちらから(照林社ホームページ)