少しの時間で実施できるリハビリテーションがある ─ 。退院後の生活を視野に入れた、患者さんの“ 1人でできること”を増やしていくための“ちょっとリハ”のアイデアを紹介します!
治療のあとには「生活」があり、病棟の先には「人生」がある
「顔を洗う」「トイレに行く」「食事をする」「掃除をする」「買いものに出かける」……。日ごろ行う生活行為とその繰り返しを通じて、私たちは生活に応じた心身の機能を維持しています。あえて特別なトレーニングをしなくても、生活行為を続けることで、 生活を送るにふさわしい機能をもつことが可能です。
疾病は、その生活に変化を及ぼします。何らかの疾病があるだけで、患者さんの気力や体力は低下します。さらに入院となると、生活環境は一変し、非日常的な病棟環境下でさまざまなストレスが加わり、患者さんはどうしても寝たままの状態になってしまいます。
そうなれば、心身の機能は大きく低下します。治療は済んだけれど、「立てなくなった」「歩けなくなった」「食事が摂れなくなった」といったことになるのです。そうならないよう、患者さんの機能低下を予防し、生活を取り戻すことがみなさん看護師と、私たちリハビリテーション(以下リハ)にかかわるスタッフの重要な仕事です。
基本動作を促し、生活行為につなげていくことが重要
低下した患者さんの生活機能は、関節可動域訓練や筋力強化などの個別の訓練だけでは取り戻せません。患者さん自らが生活行為を行うことではじめて得られるものです。
「寝返りをする」「起き上がる」「座る」「立ち上がる」といった基本的な動作を促し、それを、「顔を洗う」「トイレに行く」「食事をする」といった生活行為につなげていくことが生活再建の本となります。
リハの成否はこの“基本動作の促し→生活行為の遂行”という流れを、いかに早期から進めていくかにかかっています(図1)。
“自然な動き”のフォローだけでリハになる!
「動作」は上肢や下肢など身体の一部を動かすことです。寝返りや起き上がり、立ち上がりなどがこれに含まれます。
「行為」はその動作によって目的を果たすことです。生活行為には目的があり、それを達成するために体が動き、そして動いたあとには結果が残ります。
生活行為を促すことは、“目的─動作─結果”を繰り返すことです。それが繰り返されるなかで、患者さんは自分の生活を取り戻していきます。私たちは基本動作ができるよう、そしてその動作が生活行為につながるように手を添えていきます。
どのように手を添えるか?ということについて、特別なテクニックは必要ありません。私たちが寝返りをしたり、立ち上がったりするときの自然な体の動きを確かめ、その自然な動きになるように患者さんを介助することが基本です。
自然な動作とは楽な動作であり、無理がありません。患者さんも介助するほうも、ともに無駄な力が生じないものなのです。 介助の方法を意識する一方で、リハの拡大に伴う“リスク”のことも忘れてはいけません。生活行為を促すうえでは、転倒の予防も非常に重要です。
ちょっと”の介助で、退院後の生活が大きく膨らむ
私たちはあわただしい勤務のなかで、患者さんの動きを待つ余裕がなく、つい短時間で患者さんの行為を介助してしまいます。「ベッドの患者さんを担いで、そのまま車椅子に移す」といったことです。
患者さんの持っている力を引きだそうとせずにすべてを介助してしまっては、患者さんには何も残らず、私たちの介助の負担もいつまでも変わりません。 適切な介助とは、介助することによって患者さんの機能が高まるものなのです。その結果、介助者の負担も軽減されていきます。
治療の先に見えるもの、病棟の向こうに見えてくるもの、それは患者さんの生活です。退院後の患者さんの生活が大きく膨らむ第一歩は、手を添え、心を添えるあなたのかかわりにかかっています。
この「ちょっとリハ」特集では、患者さんの生活行為を促すためのノウハウをくわしく述べていきます。また前述の通り、転倒への予防も欠かせませんので、そのポイントについても触れています。 そして、生活の要となる「食事」へのかかわりについても、大切な要点を示しています。
●動きの介助
●ベッドサイドの環境整備
●転倒防止
●食事前のポジショニング
リハを進めるうえで、病室や病棟の環境はとても重要です。ちょっとした環境への配慮が患者さんの気持ちに大きく影響しますので、この点についても解説します。
“いつでも、どこでも、 今からできる”ちょっとリハ、明日からの看護におおいに役に立つことと思います。
“できる”が増えるちょっとリハ【第2回】朝の訪問時、カーテンを開けて同室者へのあいさつを促す
この記事は『エキスパートナース』2014年8月号特集を再構成したものです。
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