障害たしかめ体験を行う回復期の片麻痺患者さんについての研究結果をもとに、実践したいケアを紹介します。
【第43回】障害たしかめ体験を行う回復期の片麻痺患者さん[前編]研究から明らかになったこと
患者さんが障害たしかめ体験を行うことに理解を示し、援助する
●患者さんが障害たしかめ体験を行っても、叱ったり禁止したりしない
●転倒による損傷が最小限になるよう環境整備を行うとともに、障害たしかめ体験により転倒しそうなときには介助を行う
●今の状況で患者が可能な動作を助言し、介助を行う
転倒予防の第1歩として、障害たしかめ体験は回復期の自然な欲求だと知る
看護師は転倒の影響を懸念するあまり、障害たしかめ体験を行った患者さんを叱り、再挑戦させないことがあります。しかし、行った患者さんの気持ちを理解していたでしょうか?
脳血管障害の後遺症である片麻痺は、突然の発症により障害を余儀なくされます。内山1は、「急性期の死の危険を脱した患者さんが次に問題にするのは、元の体への完全な回復である」と述べており、回復期の患者心理として、元の体への回復をめざして障害たしかめ体験を行うことは、きわめて自然な行動と考えます。
つまり、まず看護師が、障害たしかめ体験を“困った行動”ではなく“回復期に起きる自然な欲求”であると知ることが必要なのではないでしょうか。そのうえで、患者さんに表①の点を明確に伝えるようにしましょう。 これにより患者さんも遠慮せずナースコールしやすくなり、隠れて障害たしかめ体験を行わずに、助言を求める関係を築きやすくなります。
表 障害たしかめ体験を行う片麻痺患者さんへのケア
①障害たしかめ体験は回復期の自然な欲求であることを理解する
●障害たしかめ体験を行った患者さんを叱らない
●以下の点を患者さんに伝えるようにする
- 回復期の患者がもつ自然な欲求の1つに障害たしかめ体験があること
- 看護師は安全に行える協力をしたいこと
- 試すなかで失敗も経験すると思うが、骨折につながらないよう、医療者の見守りや助言のもとで行ってほしいこと
②障害たしかめ体験を安全に行える環境をつくる
●障害たしかめ体験を患者さんが行うことを禁止しない
●転倒による損傷を最小限にする環境整備を行う(例:頻回に移乗する場所にカーペットか薄い
緩衝マットを敷く、打撲して危険な物は置かない、など)
●転倒しそうなときに見守りや、介助できる時間をつくり出す
③成功可能な動作を助言し、早期に成功へ導く
●今のレベルにあった安全で成功可能な動作を助言する
●患者さんが行いたい障害たしかめ体験を、安全にできるようにそばで見守る
障害たしかめ体験を安全に試せる機会をつくる
1)障害たしかめ体験は、 片麻痺の身体を理解していく過程に不可欠
障害たしかめ体験は転倒の危険が高いため、行わないほうがよいのでしょうか? 転倒したあと、看護師の反応から〈悪いことをしたように叱られる〉と感じ、時期を選んで〈したいけれど今はしない〉とする片麻痺患者さんもおられましたが、大半は、転倒後も成功するまで修正して、繰り返し障害たしかめ体験を行っていました。
患者さんは、障害たしかめ体験を行うことで、山内2の「麻痺を伴った身体を自分として深く了解し、引き受け、本来的な在り方を自覚し、その可能性めがけて生きていく状態」を体感していたと考えられます。また、Bandura3の社会的認知理論によると、新しい“行動”は直接経験または観察経験に基づき学習され、新たな行動に別の要素を組み込む、またはすでに身に着けている行動に取り入れることで獲得されると言われています。
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