9月に発売された『自立と生活機能を支える 高齢者ケア超実践ガイド』(前田圭介、永野彩乃 編、照林社発行)では、高齢者が直面する機能変化にスポットを当て、適切な評価とケアの方向性を解説。高齢者ケアにかかわるすべての専門職が活用できるガイドブックです。

 今回は特別に試し読み記事を公開!テーマは「転倒予防のケア」です。

 多職種と情報を共有し、ていねいな転倒リスク評価を行ったとしても転倒を100%予防することはとても困難です。
 転倒してしまった場合、患者さんの状態観察だけでなく、状況把握にも努めましょう。

転倒後の観察項目

 転倒後の観察前に、患者さんの意識があっても絶対に起こすことはしないでください。骨折していると骨がズレる可能性もあります。転倒した状態で観察を開始してください。
 認知症の患者さんの場合、記憶障害などから転倒を覚えていないこともあり、周囲の目撃者から聞き取りして、さらにていねいな身体観察と状況把握が必要です。

①患者の状態観察(転倒後48時間1)は要観察)

●意識レベル、瞳孔の確認:頭部打撲による脳出血や脳挫傷を発症していないか
*高齢者は脳萎縮がある場合が多く、少量の脳出血や脳挫傷では、脳が圧迫されず症状が出現しないこともあります。注意深い経過観察が必要です。
●バイタルサイン:転倒後は血圧・脈拍の上昇が起こりやすいため判断が必要
●四肢の動き:手足の先から確認
●骨折の有無:疼痛、圧痛、腫脹、内出血など
●外傷の有無:皮膚損傷の有無と程度など
●疼痛の有無と程度:部位と疼痛の程度など

②状況把握

●床の段差の有無
●床が濡れていないか
●コードや点滴スタンドなどがないか
●支持物の有無
●ベッド周囲の場合、滑り止めマットの有無や柵や介助バーの固定はどうか
●車椅子や移動補助具の位置や向き、ブレーキがかかっていたか
●照明が暗い、または過度に明るい
●風呂場の入浴用椅子が低すぎないか、介助バーや滑り止めマットの有無
●シューズを正しく履いているか

転倒予防ケアの具体例

①環境設定ボードの活用

 ベッドや車椅子、介助バー(L字柵)、テレビリモコンなどのイラストをラミネート加工し、位置や向きを貼り付けたボード(図1)を、誰が見ても同じ環境を設定できるようにします。また、1人ひとりの注意点(★部分)なども書き込みます。さらに、環境を設定した日付も書き込み、定期的(1~2週間)な評価または状態の変化、ADLの変化時にも再評価しましょう。

②危険予知トレーニング(KYT)2)

 危険予知トレーニングとは、作業や職場に潜む危険性などの要因を発見し解決する能力を高める手法であり、危険のK・予知のY・訓練(トレーニング)のTからKYTとも呼ばれます。

 KYTは、イラストなどを用いて、小グループで何が危険か、それに対してどうするかなど意見を出し合い、解決方法を決定していきます。臨床では、実現が難しいように思えるかもしれません。しかし、患者さんのベッドサイドで短時間のウォーキングカンファレンス(図2)なら実践できると思います。実際、ウォーキングカンファレンスでKYTをしつつ、環境設定ボードを作成する場合もあります。

(左)図1 環境設定ボード/右麻痺患者の例 (右)図2 ベッドサイドでの KYT
1)厚生労働省:ヒヤリハット事例集「転落」.
https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/i-anzen/1/torikumi/naiyou/manual/5l.html(2023.7.1アクセス)
2)厚生労働省:職場のあんぜんサイト.
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/yougo/yougo40_1.html(2023.7.1アクセス)

自立と生活機能を支える
高齢者ケア超実践ガイド

前田啓介、永野彩乃 編
B5・304ページ、定価:3,850円(税込)
照林社

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