思い込みで行ってしまった日常的な治療・ケアが症状の悪化や事故の原因になることも。今回は気管切開術中の高濃度酸素と電気メスの使用による、火災や熱傷事故の危険性について解説。事故の予防法や、事故発生時の対処を紹介します。

気管切開術中に高濃度酸素を使用してはいけない!

正しく理解

気管挿管中の気管切開術が、火災・熱傷事故につながる恐れがある
●気管挿管チューブの損傷やカフの収縮により、漏れ出た酸素に電気メスの火花が引火することがある
●気管切開術に際しては、高濃度酸素と電気メスの使用をできるだけ控える

気管切開術によって、火災や熱傷事故が引き起こされることがある

 Surgical Fire(サージカルファイア)という言葉をご存じでしょうか?手術中に起こる火災のことです。術中のアルコール系の消毒薬に引火したなど、さまざまな事例が報告されています1。このような火災・熱傷事故は、気管切開術中にも起こり得ます。

 気管切開術は、手術室だけではなく、ICUや救急センター、病院によっては病室で行われることもあるでしょう。待機的に十分な準備をして行うことができればよいですが、緊急に行うこともあります。しかし、注意をして行わないと非常に危険な「火災」「火傷」という状況を引き起こします。

1)高濃度酸素投与中の気管切開が危険

 少し古いデータですが、気管切開中に起こった15件の事例が報告されています2。このうち2人が死亡し、9例は何らかの熱傷を負っています。そして、そのときに100%の酸素投与が行われていたのが11例です。
 燃焼が起こるには、「可燃性物質」「酸素の供給」「熱源」の3つが必要条件とされ、燃焼の3要素と呼ばれています。気管切開術中に引火事故が起こるのは、「気管チューブの存在(可燃性物質)」「酸素の投与(酸素の供給)」「電気メス(熱源)」という必要条件がそろうためです1。したがって、この条件がそろわないように管理する必要があります。

2)漏出する酸素により、大事故につながりやすい

 気管切開術中の引火事故は、気管チューブから酸素投与されている患者に電気メスを使って気管切開を行った場合に生じ、発生機序は以下の2パターンがあります。

気管チューブを損傷し、中を流れている酸素が漏れ出して引火図1-①3
②カフを膨らませるインフレーターチューブを損傷するか、カフ自体を損傷することにより、カフが収縮し気管に流れていた酸素が漏れ出して引火図1-②3

 どちらにしても、電気メスと酸素が存在するために引火することになります。引火すると気管チューブだけでなく、咽頭部・気管支・肺にまで延焼し、熱傷や死亡という大事故につながります3

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