がん終末期においては、高カロリー輸液が口渇、高血糖、全身浮腫などさまざまな苦痛の原因となります。輸液のメリットとデメリットや、状況に応じた輸液の調整方法などを解説します。

「がん終末期ケアの“やってはいけない”」の連載まとめはこちら

がん終末期ケアのNG

デメリットを考慮せず高カロリー輸液を続けてはいけない
〈理由〉がん終末期においては、高カロリー輸液が「口渇」「高血糖」「腹水・胸水の増加」「全身浮腫」などさまざまな苦痛の原因となるから

がん終末期における高カロリー輸液のリスクとは?

 多くの施設では、終末期がん患者さんの食事摂取量が低下すると、高カロリー輸液を始めます。ターミナル前期までは有効なことがありますが、ターミナル中期以降の患者さんでは代謝低下や悪液質の状態となっており、そのため高カロリー輸液自体が口渇、 悪心・嘔吐、 高血糖、電解質異常、感染、循環動態異常、胸水・腹水の増加、 全身浮腫などの原因となって、患者さんを逆に苦しめることになってしまいます1

 予測される生命予後によって輸液のメリットとデメリット(表12を考慮し、維持輸液への変更を検討していきましょう。その際には、輸液に対する患者さん・ご家族の思いを十分に聴き、意思決定支援を行っていくことが大切です。

表1 輸液のメリットとデメリット
メリット
●PS*1がよく、消化管閉塞のために経口摂取ができない終末期がん患者において、適切な輸液はQOLを改善させる場合がある
薬剤によるせん妄や急性の脱水症状を改善するため、QOLの改善に寄与する場合がある

*1【PS】=performance status、全身状態の指標の1つで患者の日常生活の制限の程度を示したもの。

デメリット
●PSの低下した、または、消化管閉塞以外の原因のために経口摂取ができない終末期がん患者において、輸液療法単独でQOLを改善することは少ない
胸水、腹水、浮腫、気道分泌物による苦痛を悪化させる可能性がある
●輸液は口渇を改善しないことが多い(口渇に対しては口腔ケアが最も重要)

(文献2、p68より引用、一部改変)

輸液について患者家族と相談する際のポイント

 終末期の輸液に関する患者さん・ご家族・医療者の考え方はさまざまです。そのため、情報を共有し、 お互いの認識を確認すること、 繰り返し説明・相談を行うことが大切です。

 経口摂取が困難になったときに、患者さん・ご家族は「水分補給をしなければ体力が落ちて死期が早まってしまうのではないか」「輸液をしないと必要な栄養が得られないのではないか」という不安や、「輸液をすることで病状の進行を抑えられるのではないか」という希望をもっています。

 患者さん・ご家族が輸液を希望されるかどうかは、輸液や栄養に関する知識の誤解、これまでに受けた医療の経験、価値観、生活の文化的背景に関連しています2。さらにご家族は、患者さんに“何もしてあげられない”という無力感や自責感を感じていることからも、輸液の継続を希望されることが多いでしょう。このような患者さん・ご家族の思いを受け止め、輸液の実施にあたり相談と説明を行うことが大切です。

輸液の相談の際のポイント

  • 輸液のメリット、デメリット(表1)を説明し、今の状態で高カロリー輸液を行うことが患者さんの苦痛を増大させてしまうことを伝えていく
  • 患者さん、ご家族が抱える不安に理解を示し、ともに話し合う姿勢をもつ
  • 患者さんの今のつらさを表出できる場を設け、「患者さんが望むことは何か」をご家族にも聞いてもらう
  • ご家族の不全感や無力感、予期悲嘆などを傾聴し、医療チームで共有する

輸液による影響の評価と状況に応じた調整方法

 終末期の患者さんに輸液を実施するにあたっては、輸液による影響についての評価(表2)を行い、適宜、チーム内で輸液の調整・中止を考慮していきます。

この記事は会員限定記事です。