狭心症の既往のある患者で注意したい危険な心電図波形が、ST上昇、ST下降、T波の変化、洞性頻脈、心室期外収縮(PVC)です。起こりやすい原因や対応方法を解説します。

前回の記事:狭心症既往患者で注意!ST上昇・下降、T波の変化の特徴

狭心症の既往でST下降、ST上昇、T波の変化、洞性頻脈、PVCXが起こりやすい理由は?

 狭心症の既往では、ST変化が現れやすくなります。
 心電図の“ST部分”とは、心室の収縮が終わり活動電位が「0」のときを示す波形です(図2)。通常の心電図には正常時は平坦な状態として記録されます。
 このとき、心筋に虚血性変化が起きるとST下降、またはST上昇として現れます。それぞれのメカニズム、また注意して観察したい場面について示します。

図2 狭心症によって起こるST変化

狭心症によって起こるST変化

1)一時的な心筋虚血の恐れ

①ST下降

 ST下降(=一時的な虚血)につながりやすいのは、以下の場面です。

運動などの労作時(図1-①)
 正常な冠動脈では、運動などで心筋酸素需要が増加すると、交感神経作用により血管拡張と血流の増大が起こります。
 しかし動脈硬化による冠動脈狭窄部位では十分な血流が確保できないため、心筋酸素需要を満たせず、虚血変化が起こります。特に心負荷が二重にかかるようなとき(車椅子移乗+食事、歩行+トイレなど)に注意が必要です。

バルサルバ呼吸時(胸腹腔内圧の上昇)
 息を止め胸腹腔内圧が上昇すると、大静脈が圧迫され、静脈還流が減少します。このことにより心拍血流量が減少し、血圧が下降することにより冠動脈への血流が減少、狭窄部位に虚血変化が起こりやすくなります。
 例えば、排便時の怒責重い荷物を持つなどで注意が必要です。

不安定狭心症発作時(図1-②)
 動脈硬化に起因するプラークが破綻することで、血栓が形成され、冠動脈内腔が狭くなり、血流が減少もしくは遮断され、心筋虚血が起こります。労作時・安静時に関係なく起こります。

貧血・炎症時
 循環器以外の疾患で入院している場合でも、貧血がある場合(エビデンスはないものの、例としてヘモグロビン量8~10g/dL以下)の場合は心筋酸素供給に必要なヘモグロビン量が不足することになり、虚血が起こりやすくなります。
 また炎症(術後、 あるいは肺炎、 敗血症などの炎症性疾患)がある場合も、心臓以外の臓器や末梢組織において炎症に伴う酸素必要量が増しているため、常に心負荷がかかっている状態になります。そこに運動や食事などの負荷が加わることで虚血変化が起こることがあります。

2)急激な心筋壊死の恐れ

②ST上昇

 狭心症でも、冠攣縮性狭心症(vasospastic angina、VSA)の場合、虚血のサインはST上昇として現れます。
 冠攣縮は、副交感神経が優位になった際に冠動脈の一部が攣縮を起こし、急激な一過性の虚血を引き起こすものです。
 攣縮の範囲により重症度が変わりますが、副交感神経が優位となる夜間から早朝に起こることが多いとされています。特に朝方のST上昇や、胸痛の出現には注意しましょう。

3)潜在的な虚血変化の恐れ

③T波の変化

 ST変化と同様に、T波も虚血変化を示します。
 「陽性T波(T波が上がる)→平坦T波」「陽性T波→陰性T波(T波が下がる)」「T波が深く変化する」場合は、心内膜側の虚血変化が進行している可能性があります。これは冠状動脈本幹の狭窄により、心内膜側の末梢の冠動脈への血流が下降することで現れるものです。

 ただし、T波に関しては正常な心電図でも一部が陰性T波を示す場合があること、あるいは心電図をとる体位によって影響を受けることもあります。そのため、T波の異常が必ずしも虚血変化を現しているとは限りません。この詳細はモニタ心電図では判断しにくいため、12誘導心電図に切り替えて観察を続けます。ST波も含めて、12誘導心電図で得られる特徴と推測される虚血部位について表11に示します。

表1 12誘導によるST波の観察と推測される梗塞部位

12誘導によるST波の観察と推測される梗塞部位
(文献1を参考に作成)

4)虚血の初期に起こりやすい変化

④洞性頻脈

 虚血変化が出現した初期では、交感神経の緊張状態が生じ、洞性頻脈が出現することが多いです。心筋の酸素供給量をまかなうために頻脈となり、症状として動悸が出現します。

洞性頻脈の心電図波形の特徴は?

⑤心室期外収縮(PVC)

 心室期外収縮は健常者でも見られる不整脈です。ときどき見られるものは問題ありませんが、PVCを連発する場合は注意が必要です。

 狭心症で、虚血変化が一時的でまだ心筋壊死は見られない場合でも、狭心症発作が出現しているときに虚血部分の心筋(心室)から異所性の刺激が出ることで心室内を伝導することがあり、それがPVCとなって現れる場合があります。
 心筋が徐々に壊死していくに伴い、虚血時間によってはVT・VFなど致死性不整脈へと移行することがあります。

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