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●服薬は、液体と固体を同時に嚥下する点で難易度が高い課題であるが、これに特化した評価方法がこれまでなく、問題が表面下してこなかった
●錠剤の嚥下を簡易的にスクリーニングできるツールとして開発されたのが、PILL-5である
水分(液体)と薬(固形物)を同時に嚥下する服薬は、摂食嚥下のなかでも難易度の高い課題です。それは、液体と固形物という物性の異なるものを口腔・咽頭内で同時に処理することが求められるためです。
処理がうまくいかないと、薬剤を口腔内に保持している間に液体が先に咽頭へ流入してしまい、嚥下が間に合わず誤嚥してしまいます。あるいは、嚥下後も薬剤が口腔・咽頭内に残留するということが起こります。
摂食嚥下障害患者にとっては最も誤嚥を引き起こしやすい形態ですが、こうした服薬の難しさは、摂食嚥下障害患者に限ったことではありません。
米国の市場調査にて、嚥下に問題のない人でも、40%の人が服薬に困難感を有していることが報告されています¹。
このように、比較的多くの人が服薬に問題を感じているのにもかかわらず問題が表面化してこなかった背景には、服薬の嚥下に特化した評価方法がなく、定性的な評価ができていなかったことが挙げられます。
嚥下機能が低下している人には評価に基づいた適切な対応が必須
上述の米国の調査からも、困難感について医療機関に相談している人は1/4に満たず、大半の人が「頭部を伸展させながら服薬する」「錠剤を置く位置を調整する」「錠剤を分割して服薬する」など、独自の工夫をして服薬している現状でした。
自己にて解決できる嚥下機能のある人はこれでもよいものの、嚥下機能が低下している人にとっては、評価に基づいた適切な対応が必須です。
また不確実な服薬は、嚥下の安全性や効率性への影響にとどまらず、薬効にも影響することも念頭に置く必要があります。 安全性を担保しながら、効率よく確実に服薬できる方法を検討することは重要であり、こうしたなかで新たに錠剤の嚥下の程度を簡易にスクリーニングできるツールとして開発されたのが、PILL-5(ピルファイブ)です²。
PILL-5の特徴
●PILL-5は自己記述式のツールで、日本語にも翻訳されている
● 錠剤のみならずカプセルにも活用できる(粉薬には適用しない)
PILL-5は簡易的で、 妥当性・信頼性も検証されたツールである
「PILL-5」は、錠剤(およびカプセル)の嚥下の程度をスコア化するために、米国のPeter Belafsky氏により開発された自記式の質問紙票によるアセスメントツールです。
5項目の質問で構成され、服薬の困難さや服薬時の残留感についてそれぞれ5段階(0:なし〜4:毎回あった)で回答します。合計点数が6点以上であれば、服薬の安全性や効率性に問題があると判定します。
妥当性と信頼性の検証もされているツールであり²、日本語にも翻訳され「PILL-5[日本語版]アセスメントツール」として、本邦でも使用可能です(図1)³。 6〜11点は軽度から中等度の錠剤嚥下障害、12点以上は中等度から重度の錠剤嚥下障害と判定されます。
錠剤の嚥下障害では、「服薬時の誤嚥や窒息」「食道粘膜の損傷」「服薬コンプライアンス低下」「精神的苦痛」を引き起こしている恐れが高いです。
「食道粘膜の損傷」とは、薬剤が食道内に停滞し、長時間食道粘膜に付着することで粘膜の損傷を引き起こすことです。「服薬コンプラインスの低下」とは、不適切な服用法(服用をやめる、量・頻度が減るなど)により治療効果が上がらない、副作用が生じることを意味します。
そのため、6点以上であれば主治医にコンサルトし、剤形変更や服薬方法の変更を検討する必要があります。
すでに摂食嚥下障害があることがわかっている患者で、服薬方法も適切な対応がされていればその方法を継続します。しかし、嚥下調整食を摂食しており食形態に調整が必要であるにもかかわらず、服薬時は水やお茶で摂取していることがしばしばあります。
このような場合は、服薬によって誤嚥や窒息のリスクが高まるため、早急に摂食嚥下リハビリテーションを実施している科(リハビリテーション医師や言語聴覚士など)に相談し、服薬方法を変更する必要があります。また6点未満でも、5項目のうちいずれか1項目に2点(「時々あった」)や3点(「頻繁にあった」)を認めたら、対応することが望まれます。
簡易に試すことができる方法は、薬剤用の嚥下補助食品を用いることです。服薬補助ゼリーやペースト状態のオブラートは、ゼリーやペーストにて薬剤を包みこむことで、口腔、咽頭、食道の通過を助け、安全で効率のよい服薬を実現します。
図2の嚥下透視像は、錠剤を液体とゼリーで服薬した場合を比較しています。ゼリーの場合(図2-②)には、錠剤(黄色)がゼリー(ピンク色かけ)に包み込まれた状態で嚥下されているのがよくわかります。
上述のように、通常の食事を摂取している場合でも服薬に困難感を有している人は少なくありません。簡易で数分で実施できるため、服薬している患者には全員に実施してもよいといえます。
加齢とともに嚥下機能は低下します。そのため、特に高齢の患者では実施が推奨されます。この場合、摂食嚥下に対する質問紙EAT-10⁴とあわせて実施することが有効です(「EAT-10」の詳細は、https://nestle.jp/nutrition/swallow_chew/eat-10.htmlを参照)。
剤形や薬の種類に沿った適切なアセスメント・適切な服薬方法がなされるように検討する
PILL-5は服薬のアセスメントツールです。摂食嚥下のアセスメントには、摂食嚥下の質問紙やスクリーニングを適応します。PILL-5は錠剤だけでなくカプセルも含みますが、粉薬には適用しないよう留意が必要です。
しかし、粉薬を服用している患者にも5項目にある「つかえ感・残留感」や「恐怖感」などを聞くことは、次の対応につながるため有用です。
また、薬によっては粉砕することで薬効が低下してしまうことがあります。胃では溶けず腸で溶けるように設計されている薬腸溶剤や薬の効き目を持続させ、服薬回数を減らすように設計されている徐放性製剤などです。
そのため、PILL-5で錠剤の嚥下障害が疑われたら、自己判断で割る・砕くといったことをせずに主治医へ相談することが必要です。
- 1.Harris Interactive Inc. Pill-Swallowing Problems in America:A National Survey of Adults.New York,NY:Harris Interactive Inc.for Schwarz Pharma 2003.
2.Nativ-Zeltzer N,Bayoumi A,Mandin VP,et al.:Validation of the PILL-5:A 5-Item Patient Reported Outcome Measure for Pill Dysphagia.Front Surg 2019(6):43.
3.ニュートリーホームページ:PILL-5[日本語版]アセスメントツール.
https://www.nutri.co.jp/nutrition/pill-5/diagnose.html(2024.11.25アクセス)
4.ネスレ ニュートリション インスティテュートホームページ:EAT-10 嚥下スクリーニングツール.
https://nestle.jp/nutrition/swallow_chew/eat-10.html(2024.11.25アクセス)
この記事は『エキスパートナース』2022年3月号の記事を再構成したものです。
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