この記事は『がんになった外科医 元ちゃんが伝えたかったこと』(西村元一著、照林社、2017年)を再構成したものです。
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先が見えない……。つかめなくなった生活リズム

 大学病院での手術後、金沢赤十字病院に移る前の段階では、いったん感じ取った先行きの明るさもあり、またいろいろなスタッフからのアドバイスにより、食事の摂り方などについて少しずつ「自分のペース」というものがつかめてきたような気がしていました。

 ところが金沢赤十字病院に転院し、再燃したあとの治療が開始になった段階から、どうしても「先行きが不安」という精神的な状況もあり、なかなか生活のリズムをつかめなくなりました。
 
 術前の抗がん剤治療のときとは異なる味覚障害に加え、胃全摘の術後障害にも悩まされ、食事がなかなか進まない状態となってしまいました。「どうすればいいかわからない」──こんな状態が続くなら治療をやめたいと考えたりもしました。ある意味、「一時的なうつ状態」に陥っていたのかもしれません。

 自分自身も何か気をまぎらわせるために集中しようと、千羽鶴を折ってみたり……しました。家族もいろいろ気を遣ってくれて、一緒に映画を見に行ったりドライブに連れて行ってくれたり、気分転換に努めてくれました。

時間が解決してくれる?

 結局は、治療が開始となり、しばらく経ってから何となく落ち着いてきました。

 そのときに会得したことは、無理に「生活のリズムを作る」のではなく、「自分の体調や症状などに合わせたリズムで生活をする」ということです。
 
 基本的に、入院しての闘病生活は病院や医療者の日常に合わせて行うことになります。食事の時間、検査の時間、点滴の時間……。

 しかし、患者の病状がいつもそのリズムと「ぴったり」合致するわけにはいかないと思います。ある程度変更できるリズムのものは患者から合わせていったほうがいいに決まっていますが、やはり食事の時間や点滴等に関しては、場合によっては医療者側がフレキシブルに考えたほうがいいこともあるでしょう。
  
 加えて、患者にとっての「フリーの時間」が作れないか、患者と医療者がともに考えることも必要かと思います。がんの治療は当然、病状によって異なりますが、進行性の場合には1日のうち少しでも「何でもできる時間」を作ることを考えるべきです。

 例えば、「ある程度経口で栄養が摂れて身体は外出できる程度に元気であり、栄養の不十分なぶんを点滴などで補う病状」というときに、画一的に日中点滴をしてしまうと、患者は活動できる時間が少なくなってしまいます。このようなときには、日中は点滴をフリーにして夜間に点滴をすることで、かなりQOL向上が望めるはずです。

「食べられるものを、食べる」ことを大切に

 食事に関しても、現在はかなり環境が変わり、個々の患者に対して対応されるようになってきましたが、やはりまだ不自由さがあるというか、がん患者と栄養士等の考えるものには開きがあるような気がします。

 がん治療時には、全体としての食欲の低下や治療による味覚障害など、さまざまな要因で摂取量が低下する場合があります。

 そういったときは栄養価云々を考えた食事も重要ですが、まずは「食べる」ということに主眼を置き、塩分云々、糖質云々と考えるよりも、(家族の協力が必要ですが)まずは「食べられるもの」「食べられる味つけでの食事」がベストだと思います。
 
 自分自身は胃全摘後のダンピング症状がひどく、ある程度血糖等が維持されているほうが楽であり、また日中の時間を少しでも有効に使うために、夜間に点滴をし、その間に1回もしくは2回軽く食事をしているという、ある意味「夜行性」の生活を送っています。当然ながら病院食は欠食でまったく食べていません。

 内容はポタージュやシチューなどがメインで、そのときの味覚障害や腹部の状況によって何品かを加えてもらっています。個人によっても違うのでしょうが、自分自身としては、確実にどのようなときでも食べられているのは、果実ではリンゴ、甘みは小豆など和系、そして魚系という、病気をする前とはすっかり変わった食生活になってしまいました。ある意味「日本人らしい食生活」なのかもしれませんが……。
 
 いずれにせよ、「病院のリズム」や「元気なときの生活リズム」に無理に合わせるのではなく、いかに自分の病状や体調に生活リズムを合わせるか、まわりが合わせてあげられるか?ということがQOL向上にとって非常に大きいものと思います。また、そのほうが、患者自身も受け身にならず、積極性が出て闘病意欲にもつながるのではないでしょうか。

がんになった外科医 元ちゃんが伝えたかったこと【第12回】もしかしたら自分だけは……違う?

『がんになった外科医 元ちゃんが伝えたかったこと』

西村元一著
照林社、2017年、定価1,430円(税込)
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