「ベッド上~車いすへの乗車」までの一連のケア場面について解説
私は理学療法士という職業柄、看護師や介護職から、「ケアが大変な認知症の患者さんがいます。いい方法はありませんか?」と相談を受けることがあります。よく言われる困りごとは「おむつ交換のときに抵抗する」「移乗のときにベッド柵をつかんで離してくれない」「身体が固く力んでいて更衣がしにくい」といったようなものです。
読者の皆さんも、アルツハイマー型認知症の進行に伴う抵抗1や把握反射1,2,3、筋強剛3と思われるこういった場面は、おそらく経験があるかと思います。これらの症状は、「認知症にはつきもの」「認知症は進行する病気だから仕方ない」と認識されている方も、きっと少なくないのではないでしょうか。
しかしながら、いろんな医療・介護の現場に出入りしてみますと、認知症自体が進行したというよりもむしろ、ケアのありかたが不適切であるために、このような症状が二次的に(言い換えれば、認知症の進行とは別ものとして)顕在化しているケースが少なくないように感じています。
本特集では、「ベッド上~車いすへの乗車」までの一連のケア場面において、比較的多く見受けられる不適切なケアが患者さんに及ぼす悪影響と、適切なケアが患者さんにもたらすメリットについて、順を追って考えてみたいと思います。
ベッド上姿勢のポジショニング
人がベッド上に臥床した場合、頭部・胸部・殿部・大腿部(股関節に近い部分)・下腿部・踵部などの部分が分散して身体の重さを支えています(図1)。
高齢患者は殿部・踵部に重さが集中してしまう
しかし、円背や下肢屈曲の姿勢をとりやすい高齢患者が臥位となった際には、頭部・胸部や大腿部・下腿部で体重を支えることができず、殿部・踵部周囲に重さが集中して体圧が上昇してしまいます(図2)。
この姿勢では、褥瘡のリスクが高まるのはもちろんのこと、全身の緊張が高まってしまうためスムーズな呼吸・循環・嚥下・消化吸収なども総じて阻害され、安心して安楽に休息することがきわめて難しくなります。
このような患者さんに対して、膝下にクッションを差し込んで何となく隙間を埋めただけのポジショニングでは、胸部や大腿部・下腿部の重さが支えられておらず、十分な体圧分散はできません(図3)。ガチガチに力んだ身体は、ベッド上のあらゆるケアが難しくなり、またケアに要する時間も多くなってしまいます。
広い面積で重さを受けられるようにクッションを活用
有効な体圧分散のためには、クッションを入れて隙間を埋めればよいのではなく、身体パーツの重さを受け止めて支える場所が増えることが必要です。胸部と大腿部、下腿部の重さを広い面積で受けられるようにクッションを使用することで、体圧が分散されて全身がリラックスでき、安楽な臥位姿勢をとることができます(図4)。
安心して無駄な力みのない状態で休息されていれば、きっと次にベッドサイドを訪れた看護師のケアも行いやすくなるのではないでしょうか。
●「隙間を埋める」のではない
● 身体パーツの重さを受け止めて支える場所を増やす
- 1.金谷さとみ:gegenhalten(=paratony)─ 認知症患者の不可思議な抵抗.理学療法ジャーナル 2015;49(12):1115.
2.横山絵里子:認知症の診断.若林秀隆編著:認知症のリハビリテーション栄養.医歯薬出版,東京,2015:16-25.
3.橋本衛:アルツハイマー病.池田学編:認知症 ─ 臨床の最前線.医歯薬出版,東京,2012:20-33.
- 1.下元佳子:モーションエイド─ 姿勢・動作の援助理論と実践法 ─.中山書店,東京,2015.
2.小林陽子:認知症患者が抱える「つらさ」「痛み」に配慮した褥瘡ケア.ナーシング・トゥデイ 2014;29(4):47-51.
3.眞藤英恵:介助者の腰痛や対象者の二次障害を引き起こすケアと、双方にとってやさしい移乗・ベッド上移動支援の実際.地域リハビリテーション 2018;13(5):330-335.
4.田中義行:写真で学ぶ 拘縮予防・改善のための介護.中央法規出版,東京,2012.
この記事は『エキスパートナース』2020年1月号特集を再構成したものです。
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