輸血の指示が出たとき、注意したいポイントをQ&Aでわかりやすく解説。今回は、緊急時に異形輸血を行う場合の、患者さんの血液型と輸血製剤の血液型の組み合わせについてです。

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Q. 緊急時の“異型輸血”実施、患者さんの「血液型」と「輸血製剤の血液型」はどの組み合わせなら問題ない?

Answer
●緊急時、患者さんの血液型不明の場合は、赤血球製剤は「O型」を、血漿製剤は「AB型」を使用
●異型輸血は、赤血球上の抗原と血漿中の抗体が反応しない組み合わせであること

緊急時、血液型不明の場合の赤血球製剤の選択は?

 『危機的出血への対応ガイドライン』1(発行:日本麻酔科学会、日本輸血・細胞治療学会)では赤血球製剤の緊急時の選択について「時間的余裕がない場合は交差適合試験を省略し、ABO同型血を用いる。同型適合血が不足する場合はABO異型適合血を用いる」「血液型不明の場合はO型を使用する」と記載されています。この意味を考えてみましょう。

 患者さんの血液型が判明(確定)している場合は、血液型と同型の輸血製剤が最も問題のない組み合わせであることは言うまでもありませんが、患者さんの血液型が不明の場合には、血液型がABO血液型のどれであっても輸血製剤が患者さんの血液と反応しないような血液型の組み合わせでなくてはいけません。

 そう考えてみると、A、B抗原がどちらも陰性であるO型の赤血球は、“抗体が反応する抗原自体を持たない”ので、輸血する“患者さんの血漿中に抗A抗体や抗B抗体のどちらが存在しても反応しない”ことがわかります(図1)。

 したがって、緊急時で患者さんの血液型が不明のときはO型の赤血球製剤を輸血すればよいことになります。

図1 ABO血液型別、赤血球上の「抗原」と血漿中の「抗体」

ABO血液型別、赤血球上の「抗原」と血漿中の「抗体」の図

 なお、赤血球製剤は製造時に大部分の血漿成分が除去されていますので、O型の赤血球製剤には抗A抗体と抗B抗体は含まれていないと考えて差し支えありません。

 さらに、『危機的出血への対応ガイドライン』では緊急時の適合血として異型適合血の選択が示されています(表11

表1 緊急時の混合血の選択

緊急時の混合血の選択についての表

 例えば、血液型がAB型の患者さんに対する赤血球製剤の選択が「AB>A=B>O」と書かれているのは、同型のAB型の製剤が適合製剤の第1選択ですが、AB型の製剤が準備できないときにはA型とB型の製剤が(患者さんの血液型とは異なるけれども)第2選択として使用可能な製剤である、という異型適合血を意味しています。

 これは、AB型のヒトの血漿中には抗原と反応する抗A抗体、抗B抗体のどちらも存在しないので、緊急時にはA型とB型のいずれの赤血球製剤も使用可能であるということはわかりますね。

緊急時、血液型不明の場合の血漿製剤の選択は?

 では、患者さんの血液型が不明の場合、血漿製剤の血液型はどう考えればよいでしょう。

 表1では同型の次にAB型の血漿製剤が示されています。もうおわかりですね。AB型の血漿製剤には“抗原と反応する抗体自体(抗A抗体、抗B抗体ともに)が含まれていない”ので、患者さんの血液型が何であっても赤血球上の抗原とは反応しません。
 したがって患者さんの血液型が不明の場合、血漿製剤はAB型を使用すればよいことになります。

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