この記事は『考えることは力になる』(岩田健太郎著、照林社、2021年)を再構成したものです。
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「質問を重ねる」には好奇心が不可欠

 さて、「質問を重ねる」には好奇心が不可欠です。好奇心も感情の一種ですが、興味関心がないものに質問を重ねることは不可能でして、そんな面倒なことはすぐに止めてしまいます。まさに「愛の反対は無関心」なのです。

 うまくいっているカップルは、「あなたの話をもっと聞きたい。いつまでも聞いていたい」と聞き続ける相手がいるカップルです。うまくいっていないカップルは、「お前の話は聞き飽きた」と思っているカップルです。興味関心・好奇心、大事ですね。

 興味関心・好奇心は、イデオロギーに膠着した「タコツボ」から脱出する最も手っ取り早い手段でもあります。

 同じ価値観、同じ知識体系、同じ世界観を共有するタコツボに閉じこもっていても、強い興味関心・好奇心があれば「外はどうなっているんだろう」と飛び出したくなってきます。その「飛び出し」には強いエネルギーが必要なので、多くの人は「面倒くさい」とツボにはまったままなんです。

 好奇心をドライブするのは感性です。新しいもの、新しい考えかた、今まで聞いたことのないアイデアにビビビッと反応する感性です。

新しいものは、にわかには理解できない

 新しいものは、にわかには理解できません。「理解できへん」「納得いかへん」という感情が先に立ちます。しかし、多くの人はここでおしまいにしてしまい、「だから、これ以上聞きたくない」とタコツボに戻ってしまいます。まさに、冷えきったカップルそのものです。

 エネルギーと感性にドライブされたロジカルな人物はそこで止まりません。「理解できへん」「納得いかへん」とき、「では、なぜ理解できないのだろう」「私が納得いかないのはどのへんやろう」とさらに深く突っ込みます。これを繰り返していると、「なーんだ、案外難しいことじゃなかったんだ。それなら理解できる」と得心がいくこともあるんです。

 タコツボに入っている人たちは、この「得心がいく」快感を自ら放棄しています。もっとも、いつもいつも得心がいくことばかりとは限りませんけどね。まあ、うまくいかないこともあるからうまくいったときはうれしいのであって、いつだってうまくいくんじゃ、それはそれでエキサイティングではありません。うまくいかない可能性が秘められているからこそ、そこにチャレンジの価値ってものがあるのです。

タコツボを助長するもの

 ところで、タコツボから抜け出て、新しい価値や考え方に触れ、その「理解できへん」「納得いかへん」ところと取っ組み合うのには、どこでどうやって訓練すればよいのでしょうか。

 一番駄目なのはネットです。ええ?それが一番手っ取り早いんちゃうの?(岩田は生まれが島根県、奥さんが京都人で、ぼくらは現在、神戸市に住んでます。ので、基本関西弁はインチキです。雰囲気で使っているだけですので)。

 そういえば、昔はインターネットをブラウジングすることを「ネットサーフィン」なんて呼んでいました。でも、10年前のネットと今のネットはずいぶん違うんです。現在のネットはわれわれにぐっと寄り添っています。検索するときも、ただ無機質に検索しているのではなくって、「われわれが欲しいであろう情報」をアルゴリズムを使って探しだしてくれるんです。

 なので、ジャニーズが好きな人はジャニーズ関係の情報をネット検索しまくり、その結果、何を検索してもジャニーズ系の情報しか手に入らなくなっています。こういう人は、世の中にはAKB48というアイドルが存在することすらも気がつかないんです(ちょっと例えに誇張が入ってますが、まあ、そういうことです)。ツイッターもフェイスブックも、自分の関心のある情報ばかりが集中的に入ってくるタイプのネットワークです。

 なので、現代のネット環境は使えば使うほどタコツボの深さが増していくばかりです。こういう人たちは自分たちの考えの枠組み(フレームといいます)以外のものの考え方が理解できません。全肯定か全否定しかできない、貧弱な発想ばかりが発達していきます。ネットは使えば使うほど「バカになる」要素をもっているんです(もちろん、そうならない方法もありますが)。バカとは、ロジカルになれず、「どうしてなんだろう」と質問を重ねることができない(ただ、全肯定するか全否定するだけの)頭の使い方をする人のことをいいます。危険ですよ~。

 次に駄目なのが、新聞とテレビ、それに雑誌。こういうラージメディアは基本的に定型的なものの考え方しかできません。

 日本の場合、新聞記事を書く人も、テレビのニュースを作る人も、「どうしてなんだろう」と問いを立てません。例えば、何か病院で不祥事が起きたときでも「どうしてこういう不祥事が発生するのだろう。わからへん。理解できへん」と考えて問いを重ねるジャーナリストは少数派です。「なんや、病院が不祥事しやがってけしからん! 叩いたろ!」と「はじめから答えができてる」ことがほとんどです。そういう目でテレビや新聞を見直してみてください。驚くほど彼らの口調は「いつもおんなじ」であることに気づくでしょう。雑誌もおおむね、同様です。

 というわけで、ネットやテレビや新聞や雑誌情報はタコツボから出るのには少しも役に立ちません。

『考えることは力になる ポストコロナを生きるこれからの医療者の思考法』

岩田健太郎 著
照林社、2021年、定価1,430円(税込)
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