この記事は『考えることは力になる』(岩田健太郎著、照林社、2021年)を再構成したものです。
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 ここまで読んできて、皆さんにはこういう質問が出てくることでしょう。

「じゃ、どうすればいいの?」

 なあに、難しいことではありません。皆さんが、自分のタコツボを離れて好奇心豊かに新しい価値観と触れ合う機会は簡単にもてるんです。

 休みの日の趣味やサークル?配偶者や子どもとの時間?駄目駄目、だって趣味やサークルはそもそも「価値観を同じくする人たち」の集合ですから、職場とおんなじです。家族の場合、配偶者との対話は価値観を豊かにする素敵な方法ですが、多くの場合は似たような価値観の人を配偶者にしていますから、その効果はもうひとつかもしれません。もっとも配偶者との対話も、とても役に立つこともあります。その話はまたあとで。

ナースは意外と医者以外と会話していない

 等質な人たちだけとの邂逅(かいこう)は自分をリッチにしてくれません。そういう出会いとは違う形の「出会い」が必要です。まずは手近なところからいきましょう。それはナース以外の医療者との対話です

 まあ、ナースは医者とはよくコミュニケーションをとっているかもしれません。でも、医療者はナースと医者のみならず。薬剤師、臨床検査技師、事務方、クラーク、栄養士、ソーシャルワーカーなどと、たくさんの人が病院では働いています。掃除のおじさん、おばさんもいますし、最近ではボランティアの方もよく来ますね。おっと、学生さんも忘れてはいけません。

 驚くべきことですが、ナースは“意外に”他の医療者とのコミュニケーションをとりません。多職種会議で、一番に沈黙してしまうのがナースだったりします。あるいは逆に、「演説」ばかりして他の医療者の言葉に耳を傾けない存在だったりします。

 これを言うのは誠に申し訳ないんですけど、岩田の観察するところ、ナースのなかには、医者以外の医療者の話に耳を傾けない傾向があるのです。これはナースが猛省すべき問題だとぼくは思います。本書は“ぶっちゃけ”でリアルな問題しか取り扱いませんから、耳が痛かろうこの問題も、ぶっちゃけ、申し上げてしまいます。この時点で、ぼくも編集さんもかなりビクビクしてますけど。

ナースが医療者に不寛容になりうる理由

 問題は、です。ナースが“なぜ“そのように医療者に不寛容になりうるのか、ということです。

 その答えは医療機関における権力構造にある。ぼくはそう思っています。

 現実はともかく、そして理想理念はともかく、多くの人たちにとって医療の主役は医者です。で、準主役はナースです。ぼくはそうは思いませんが。読者の皆さんのなかにも「そうは思わない」という人もいるでしょうが。現実にはそう考えている人は、わりと多い。

 さて、「主役」たる医者はヒエラルキーのトップに存在します。トップは傍若無人に振る舞うことも可能ですが、この情報過多な現在、こんな将軍様のトップは長続きしません。すぐにツイッターあたりでボコボコにされてしまうのがオチです。

 よって、その本音はさておき、現在の組織のトップはいろんな人の意見を寛容に聞くポーズ、というのがデフォルトになっています。多くの医者は組織、あるいは小グループのリーダーです。だから、他の医療職の言うことを“意外なほど”よく聞きます。

 一方、「準主役」たるナースはヒエラルキー的には他の医療者により近い場所に属します。その近接性、距離の近さは他者からの攻撃のターゲットになりにくいのです。それは、なぜか。

 そうだなあ、病院長がやたら批判される病院ってあるでしょ。そうでない病院も多いと思うけれど。ところで、副院長がやたら批判される病院って珍しくないでしょうか。まあ「近接性」とはそういうものだと考えてください。

 このような微妙なポジションを所与のものとすると(当たり前だと勘違いすると)、ナースは他者の話を一切聞かないとか、やたら自分ばかりが演説する、みたいになりがちなのです。そして二言目には「看護部としては」と自分の立場ばかりを強調するのです。残念ながら実例なき話ではありません。

 もちろん、皆さんご存じのように医者も他人の話を聞かない人が多いです(いや、ホント)。だから、ナースだけ批判するのはフェアではありません。しかし、このような構造から、ナースが“案外”他職種の言葉に耳を傾けていないって話です。そんなことはない、という反論はもちろん甘んじて受けます。

 病院ではやはり発言力が圧倒的に強いのが医者、次いでナース、その次は医事課とかの一部の事務かな。病院では技師や薬剤師は非常に発言力が弱いですし、病棟や外来のクラークや受付とかだとほとんど発言権がない。

『考えることは力になる ポストコロナを生きるこれからの医療者の思考法』

岩田健太郎 著
照林社、2021年、定価1,430円(税込)
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