患者さんの体験・心理についての「研究」を原著者に紹介してもらい、臨床で活用したいこころのケアを探っていくシリーズ企画。今回は、レビー小体型認知症の患者さんの体験・心理についての研究[前編]です。

レビー小体型認知症患者さんは、何に困っている?

レビー小体型認知症患者さん

レビー小体型認知症の患者さんには、記憶障害があまり見られない

 レビー小体型認知症は、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症と並ぶ3大認知症の1つです。

 私は、“認知症の患者さんには記憶障害がある”ことを当然と思っていました。また、原因疾患にはこだわらず、認知症とひとくくりにしていました。
 ところがある日、数か月ぶりに会ったレビー小体型認知症患者のAさんに、「加藤さん(筆者)、久しぶり」とはっきりと声をかけられ、はっとしました。「Aさんはこんなにも記憶がしっかりしているの?私はAさんのことをわかっていない」と痛感しました。 そして、「レビー小体型認知症患者さんは、どんな思いをもってどんな困難を抱えて過ごされているのだろう」と思いました。

 そこで、記憶障害が目立たないレビー小体型認知症患者さんは、“自分の変化や症状をある程度記憶し理解しているのではないか”“自分の体験を語ることができるのではないか”という観点から、レビー小体型認知症患者さんの困りごとをご本人の視点から明らかにしたいと考えました。

本研究は、以下の倫理的配慮のもとに実施されたものです。
●本研究は、研究倫理審査委員会の承認を受けて行っています。
●対象者には口頭および文書で研究目的・方法・参加の自由・拒否や途中辞退の自由・個人情報の保護などを説明し、同意をいただいて実施しました。
●面接は、身体的・心理的な状態に常に注意を払いながら行いました。

研究の方法

疑問(調べたこと)
●レビー小体型認知症患者さんは、病気や症状などをどのように体験している?そのときの思いは?

研究対象
●臨床診断基準に基づき、専門医の診断を受けた患者さん8名(男性4名、女性4名、平均年齢76歳)

研究方法
●レビー小体型認知症患者さんが体験している未知の現象について、レビー小体型認知症の高齢者の語りを通して探索するため質的記述的研究の手法を用いた
●データ収集は、半構造化インタビューで行った
*【半構造化インタビュー】ある程度の質問項目をあらかじめ決めておくが、対話の流れに応じ、表現や順序を変更して質問する面接法。

発見:患者さんは自身の変化を自覚していることが多い

 レビー小体型認知症患者さんが語ってくださった困難と思いを下記1に示します。困難の内容は、日常生活に欠かせない会話歩行に関するもの幻視によるものがありました。

レビー小体型認知症患者さんが語った生活上の困難な体験と思い1

【会話の喪失】

●流暢性の低下によるいらだちや不安
・会話が突然止まった体験から、話すことに不安を感じる
・会話がしにくくなり、話すことに頼りなさや伝わりにくさがあり、いらだった
・言葉も忘れそうで口もなめらかに動かず、話しにくい

●会話することへのためらい
・周りの人が話している内容がわからず、会話に参加できない
・特に新しい人と話すときはどう言おう、何を聞かれるだろうと緊張する

【パーキンソニズムによる防ぎようのない転倒】

●身体の動きにくさ
・体が硬く、特に動きはじめが動きにくい
・夜寝ていてトイレに行くのに時間がかかる
・治療薬の副作用で動きにくさが出ることがある

●姿勢保持や歩行が難しい
・歩くときに、すり足やうつむいた姿勢になる
・座っているのも不安定でつらい

●体調のコントロールがうまくできない
・めまいや体の不調をずっと感じている
・何をするのも大儀に感じる

●あっという間に倒れるので、防げず恐い
・あっという間に倒れるように転倒し、防ぎようがない
・なぜ転んだかわからず、歩くのが恐い

【日常に入り込む幻視がもたらす多様性】

●幻視による会話の支障
・今、目の前にあるような具体的な幻視や幻聴が突然現れ、会話が中断する
・幻視により話が飛び、会話がかみ合わずあいまいさが残る

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