日進月歩の医療界。治療・ケアに用いる用品もどんどん進化してきています。新しい用品がケアにもたらした変化、活用する際の注意点などを紹介します。

図1 AED(自動体外式除細動器)の例

ハートスタートFRx+e(画像提供:株式会社フィリップスジャパン)
●電源ボタンを押して作動させるタイプ。付属の除細動パッドは成人・小児共通

自動体外式除細動器 AED-3100シリーズ カルジオライフ AED-3151(画像提供:日本光電株式会社)
●フタを開けると自動で電源ONとなる。パッドはさまざまな年齢層共通。スイッチを切り換えることで未就学児から小学生、大人まで対応。

1968年、世界初のポータブル式の心電図モニタつき除細動器が開発

 AEDは、心停止状態にある人に電気ショックを与えて、心臓のリズムを正常に戻すための装置です。
 
 1961年、カール・エドマークが開発した直流の除細動器1が臨床試験に成功し、同年にはエドマーク波形を搭載した“最初の商用モデル”の直流除細動器2が製造され、実際に患者の治療に使われました。
 さらにワシントン大学などが、どうすれば1秒を争う心室細動(VF)の治療を現場で行うことができるかを研究しつづけた結果、1968年に世界初のポータブル式の心電図モニタつき除細動器「LIFEPAK®33」の開発に成功しました3。現在のAEDの前身となる革新的な発明です。

 日本では、1985年に現在のAEDとほぼ同じ構成の機種が、また1986年には家庭用AEDがリリースされています。

一般市民がAEDを使用できるように

 成人における病院内外心停止は、しばしば心室細動(VF)、心室頻拍(VT)により引き起こされます。
 この状態では心臓の筋肉が無秩序に細かく収縮しているだけのため、心臓からの血液の拍出は完全に停止し、急速に死に至る、きわめて危険な状態となります。

 VF/VTによる心停止では、その“発生から除細動までの時間”が救命にとって決定的な因子となります。突然の心停止例では、VF/VTはそれ以外の心停止状態と比較して最も高い救命率が期待される病態です4。しかしながら、VF/VTが発生してから除細動が1分遅れるごとに生存退院率が7~10%ずつ低下す5といわれており、一刻も早く電気的除細動を行わなければなりません。

 VF/VTによって心臓に血液が供給されなくなると、わずか3~4分以上の時間を経過しただけで脳の機能の回復が困難となる6ほか、そのまま放置すれば体の他の部位の後遺症の発生や、死亡のリスクも高くなります。

 AEDは小型で持ち運びができ、現在では各地の公共施設などにも備えつけられるようになっていることから、救急車が来る前の段階で、現場にいる人たちが除細動電気ショックや心肺蘇生といった適切な処置を行うことが可能になりました。

 総務省消防庁の『令和5年版救急・救助の現況』7では、 令和4年に心肺機能停止により救急搬送された傷病者のうち、 一般市民により発見された心原性心肺停止の傷病者数は28,834人で、一般市民がAEDを使用し除細動を実施した傷病者数は1,229人、そのうち1か月後の生存者は618人と報告しています。
 
 病院内においても、AEDの効果だけではないが救命率が高まっていると報告している論文も見聞されます8

一次救命処置(BLS)の講習会が広がる

 厚生労働省の通知では、業務の内容や活動領域の性格から、“一定の頻度で心停止者に対し応急の対応をすることが期待、想定されている者がAEDを用いても医師法違反とならないものとされるための条件”は、以下の4条件によるものとしています9

①医師等を探す努力をしても見つからない等、医師等による速やかな対応を得ることが困難であること
②使用者が、対象者の意識、呼吸がないことを確認していること
③使用者が、AED使用に必要な講習を受けていること
④使用されるAEDが、医療機器として薬事法上の承認を得ていること

 これらをふまえ、看護師は、AED使用に必要な講習を受けることが絶対的な条件となり、全国的に一次救命処置(BLS)の講習会が広がりました。そして、多くの看護師がその技術、知識を有することとなりました。
 近年では、看護師がAEDを使用することにより、多くの救命症例が研究結果として報告されています。

1.W Edmark Jr Karl:Heartbeatindicator.US Patent 2801629, 1957.
2.E Haber:Cardiac monitoring device.US Patent 3144019, 1964.
3.MJ Eugene:Method and instrument for determining the pulse rate of a person with an implanted heart pacer.US Patent 3599627,1971.
4.Heward A, Damiani M, Hartley-Sharpe C:Does the use of the Advanced Medical Priority Dispatch System affect cardiac arrest detection ?.Emerg Med J 2004;21(1):115-118.
5.CARA,M:Tentative Classification of Emergency Situations,in:Planing and Organization of Emergency Medical Services(EURO Report and Studies 35)
Hrg.Wored Health Organization Kopenhagen 1981,S.21-28.
6.ガイドライン作成合同委員会(日本救急医療財団、日本蘇生協議会):JRC(日本版)ガイドライン2010.
http://www.qqzaidan.jp/jrc2010_kakutei.html(2015.5.20アクセス)
7.総務省消防庁:令和5度版 救急・救助の現況.
https://www.soumu.go.jp/main_content/000924645.pdf(2024.7.9)
8.西崎光弘,他:病院の緊急時対応・院内の救命救急事例発生時の対応.共済医報 2011;60(4):269-275.
9.厚生労働省:厚生労働省医政局長通知「非医療従事者による自動体外式除細動器(AED)の使用について」.
(医政発第0701001号、平成16年7月1日)
1.日本救急医療財団心肺蘇生法委員会 監修:Ⅱ章2・成人の一次救命処置.救急蘇生法の指針2020医療従事者用(改訂6版).へるす出版,東京,2022.
2.総務省:参考資料・自動体外式除細動器(AED)について.
https://www.soumu.go.jp/main_content/000170045.pdf(2024.7.9アクセス)

モノで変わった!看護ケア【第2回】救急ケア②頸部保護用品

この記事は『エキスパートナース』2015年7月号特集を再構成したものです。
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