この記事は『考えることは力になる』(岩田健太郎著、照林社、2021年)を再構成したものです。
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うまくいくコツは相手の話をとにかく聞くこと

 夫婦の会話がうまくいく方法は簡単です。「相手の話をもっともっと聞いていたいモード」になることです。ここでもまず「話すこと」より「聞くこと」なんですね。

 とにかく配偶者の話をよく聞きましょう。そして「もっと聞きたい」というメッセージを出し続けましょう。それは「ふんふん」といううなずきでも、「それってどういうことなんだろう(だからもっと詳しく教えて)」という首をかしげた表情でも、「それで?」という一言でも、「それってどういうこと?」という質問でも、なんでもかまいません。とにかく、相手の言葉を聞きたい、聞きたい、というメッセージを送り続けるのです。

 夫婦の会話がうまくいかない最大の理由は「あなたの言うことは聞き飽きた」というメッセージが、そこはかとなく出されてしまっているからなのです。話を聞きたくない相手には沈黙するのが当たり前です。

 そして、配偶者に対して「もっと聞いていたい」メッセージを言葉で、表情で、態度で示すことがちゃんとできている人は、職場でも同僚や他の医療職や上司や部下や患者さんにも、「もっとあなたの話を聞きたい」メッセージを言葉で、そしてノンバーバル(身振り手振り)な方法で示すことができるはずです。配偶者にそれができない人は……おわかりですね。ほら、配偶者との会話の善し悪しは、職場での会話に見事にリンクしているのです。

 大切なのは、「聞くこと」です。聞くためには相手に対する好奇心が旺盛でなくてはなりません。その好奇心をいかにドライブし続けるか、が大切なのです。

 「聞く」態度をドライブするのは、もちろん好奇心です。愛の反対は無関心、無関心の反対は好奇心。好奇心は愛の潤滑油なのです。

 世の中にはおしゃべりの好きな人と、しゃべるのが苦手な人がいます。でも、どっちでも関係ありません。おしゃべりな人はこちらが促さなくてもどんどんしゃべってくれます。寡黙な人は、こちらも沈黙して促してあげれば、少しずつしゃべってくれます。「あなたの話をもっと聞きたい」というメッセージは万能なのです。

 そして、ここが重要なのですが、「あなたの話をもっともっと聞きたい」というメッセージを出し、相手の話をちゃんと聞いてくれる人であれば、相手も話を聞いてくれるものです。そのタイミングで、今度はあなたが配偶者に言いたいことを言えばよいのです。

 「相手の話を聞く」ときに大事なのは、話の腰を折らないことです。途中で意見を差し挟むのはよくないです。「その話はもう聞いた」と退屈そうにするのももちろんダメ。落語なんかが典型的ですが、同じ話だって何度聞いても聞きがいはあるのです(要は心のもちようです)。

 ぼくなんか、特殊能力をもっていて、「同じ話」を何度聞いても楽しく聞くことができます。ま、つまり、忘れっぽいので過去に聞いた話も忘れちゃってるんですね。何度同じ話を聞いてもフレッシュに聞き直せる特殊能力……と、肯定的に捉え……たい。

 というわけで、配偶者とのコミュニケーションはすべてのコミュニケーションにおける基本です。これができて、はじめて次のステージに行けるのです。

『考えることは力になる ポストコロナを生きるこれからの医療者の思考法』

岩田健太郎 著
照林社、2021年、定価1,430円(税込)
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