看護のポイント
早期に支援を開始する
現在のコミュニケーション方法で十分に意思疎通ができるうちに、病状の進行を予測し、意思伝達手段を複数確保しておくことが、患者さんや家族の不安軽減につながります。
そのためには、患者さん自身が、複数の意思伝達手段を身につけることの必要性や目的を理解して取り組む必要があります。医師から疾患の告知や経過の説明をするとき、コミュニケーション機能障害と対処方法についても伝えることで、早期に支援が開始できます。
AACの早期導⼊は、疾患が進行した状況でのコミュニケーションスキルを向上させる機会を与え、ストレスやうつ状態を減少させ、患者さんと介護者のQOL(quality of life:生活の質)を改善する効果があるといわれています。
コミュニケーションの目的を明確にする
さまざまなAACが開発されていますが、機器を導⼊することだけがコミュニケーション支援ではありません。使用者の意欲と機能が保たれていることや、患者さん・家族にとって負担のない方法であることが重要です。
患者さんが日々の生活で「誰と」「何を」「どのような状況」でコミュニケーションをとっているか聞き、今後の生活でもそれが続けられるように考えていくことが、1人ひとりに合ったコミュニケーション支援につながります。
患者さん自身の目的(下記)を明確にすることで、新たなコミュニケーションの獲得に向け主体的に取り組むことにつながります。
また、AACを利用することで、ALS患者の自立性が⾼まり、うつ症状や⼼理的苦痛を軽減する効果や、患者さんの社会参加とQOL向上を可能にすることなどが、先行研究で明らかにされています。
コミュニケーションの目的の例
●ケアしてくれる人に要望を伝えたい
●家族や身近な人と会話を楽しみたい
●遠方にいる家族や友人とメールでやり取りをしたい
●インターネットを閲覧したい
●自分の考えや作品を発信したい
患者さんに合ったAACを選択・導入する
神経難病のコミュニケーション機能障害に対して、さまざまなAACがあります(表1)。いずれの方法も、患者さんの随意運動が保たれている部位を活用し、合図や機器の入力操作を行うものです。
IT機器を用いないAAC
電子機器や複雑な道具を用いない方法として、口文字や文字盤があります。
いずれの方法も、発信者(患者さん)が伝えたい文字を選定して合図(まばたきなど)するのを、読み取る受信者(介助者)の存在が必要です。そのため、発信者と受信者双方の技術習得が必要ですが、まずは使いはじめてみてください。
口文字や文字盤などの非エイドあるいはローテクノロジーエイドは、外出先や災害時など電源が確保できないときにも簡単に利用できます。
また口文字や文字盤を利用したコミュニケーション方法を理解しておくことで、病状が進行した際に利用が想定される意思伝達装置の操作方法の理解にもつながります。
文字盤を使用する場合は、コミュニケーションに十分な時間をかけ、必要に応じて内容を記録します。
MSAなどで小脳失調に伴う測定障害や振戦がある場合は、文字を囲う枠を少し高くして文字を特定しやすくするなどの工夫が必要です。
IT機器を用いたAAC
IT機器を用いたコミュニケーション手段として、パソコンやタブレット、専用機器としての携帯用会話補助装置などがあります。
これらのIT機器は、随意的な身体活動があり、それを電気信号に変換させることができれば、入力スイッチとしてパソコンや意思伝達装置に接続し、操作することができます。
図1に、入力スイッチの例を示します。なかでも、視線検出式のAACは、数秒間文字を凝視することで選択でき、文章作成に要する時間の短縮化が期待されています。ただし、長時間の使用で眼精疲労が起こる可能性もあります。
発声が可能な時期に自分の言葉やフレーズを録音しておき、パソコンなどで作成した文章を読み上げるようにする技術もあります。
AAC導入のための機能評価
個々の病態や経過によって、障害の状況は異なります。難病患者のコミュニケーションを確保するためには、認知機能、視覚や聴覚などの感覚機能、随意運動が可能な部位(表情筋や瞬き、眼球運動なども含む)の残存機能などを総合的に評価する必要があります。そのうえで、随意運動を入力動作に変換できるスイッチの適合を行います。
振戦などの不随意運動が強いと、入力操作が困難になり、AACの利用が難しい場合もあります。
AACの選択と留意点
IT機器の選択には、本人の身体機能のみならず、家族介護者の支援の状況や、必要なコミュニケーション場面・相手を含めた生活環境でのニーズとの整合も必要です。
また目的に合わせた方法を選択することはもちろんですが、患者さんの負担が少なく、安定的に操作できる部位を特定するのも、支援者に必要な技術の1つです。
例えば、選択のポイントとして、以下のような点が挙げられます。
●患者さんのこれまでのパソコンやスマートフォンの使用経験を生かす
●使用時の姿勢保持や環境調整、機器の設定に負担が少ない