せん妄はよくわからないと思ってしまいがちですが、メカニズムを知れば効果的な対応・ケアが見えてきます!ここではせん妄を理解するためのポイントを3回に分けて紹介します。

せん妄=急性脳不全と考えてみる

 せん妄を端的に表現すると、「急性脳不全」といえます1。脳不全という用語はあまり使われないため聞き慣れないかと思いますが、“慢性”脳不全に該当するのが認知症で、せん妄と密接にかかわっています。

 認知症では、脳が機能不全に陥りますが、一部の機能は保たれるため患者さんの印象はちぐはぐな感じになります。一瞬普通にみえても病室を自宅と勘違いしたり、見えないもの(幻覚)と語り出したり、理不尽に怒り出したりといった症状が現れ、それがころころと変化します。

せん妄は、脳不全が起こるほどの重篤な急変・悪化のサイン

 健康な(せん妄でない)人にとって理解しがたい現象ですが、せん妄でなくても、まれに同じような体験をすることがあります。

 例えば、幼少期にインフルエンザにかかって熱にうなされて天井が歪んで見え、ぼんやりふらふらし、起きているのか悪夢にうなされているのか、わからなくなったことはないでしょうか?

 これらインフルエンザ脳症のような症状には、炎症性サイトカインが影響していると考えられています。もっと軽いものでは風邪をひいたときのだるさ、ぼんやりとした感じ(「acute sickness behavior」と呼ばれる現象)で、せん妄と同じくサイトカインによるものとされます2

 このように、不調時に脳機能が低下するとせん妄のような症状として観察されます。つまりせん妄は、脳不全が起こるほど重篤な何かが起こっているという状態で、血圧低下、頻呼吸同様に、急変・悪化のサインなのです。

1.Marcantonio ER:Delirium in Hospitalized Older Adults.N Engl J Med 2017;377(15):1456-1466.
2.佐仲雅樹,瓜田純久,中西員茂,他:「重症感」の症候学的考察 直感を共通言語化する.日本プライマリ・ケア連合学会誌 2012;35(4):299-305.

この記事は『エキスパートナース』2019年10月号特集を再構成したものです。
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一般病棟でのせん妄対策【第2回】せん妄を理解するためのポイント②せん妄の診断基準や観察ポイントは曖昧。多職種・家族