「まず何をすべきか」がわからない

 このような病状になったとき、まずみんなに聞かれたのは「検診を受けていなかったの?」という質問です。

 社会的な立場上、検診を勧める側にありましたが、恥ずかしながら胃内視鏡検査をここ5年ほど受けていませんでした。「いつでもできる」「忙しいので今度」「症状がないから……」という素人みたいな考えと、いろいろな役職に就いていたこともあり、けっこうスケジュールが詰まっていたので、「何かあっても休めない」、すなわち病気が見つかったら困るという思いもありました。そして、やっぱり「自分は大丈夫」という変な自信があったのかもしれません。

 さて、進行胃がんが見つかってしまったことは自業自得と言ってしまえばそれまでですが、今までさんざん自分の受け持ち患者さんには「病気とうまくつきあいながら……」と話してきました。しかし自分が患者の立場になってみると、「まず何をすべきかよくわからない」というのが本音でした。

 数日前まで普通に仕事をしていた状況と、診断がついてしまった状況とを比較して、少なくとも肉体的に変化はありません。ただ「人間はいつか死ぬ」と言われても、死ぬのはずっと先のような気がしていましたが、「いつか」が具体化(半年後なのか、1年後なのか……)されると、当然ながら命が有限であることを認識せざるを得なくなりました。

 すなわち「いつか役に立つから」とか「面倒くさいのでいつかやろう」など、ずっと先のことを考えたり、ものごとを先送りすることができなくなったということです。

「なぜ自分が!」という思いが強くないと言ったら嘘になりますが、後悔ばかりしていてもしょうがないので、今後は病気を前向きにとらえてがんばるしかない、という気になったのも事実です。

 ただ家内から、「他人にはいい医者だったかもしれないけど、自分自身には藪医者やったね……」と言われた言葉は胸に響き、返す言葉もありませんでした。

がんになった外科医 元ちゃんが伝えたかったこと【第2回】人生やっぱり「人生ゲーム」?

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西村元一著
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