ユマニチュードの概要
●ユマニチュードは、「あなたは大切な存在です」と患者に伝えながらケアを届ける技術
● すべてのケアを、 ひと続きのシークエンスとして実施する
ユマニチュードは、 認知症患者以外にも効果があるとされている
ユマニチュードは、フランスで生まれた40年あまりの実績をもつ知覚・感情・言語による包括的なケア技法です。ケアをするときに相手の能力を奪わないという原則をもとに、「あなたは大切な存在です」というメッセージを相手が理解できる形で届けるための方法でもあります。
“高齢者のための”“認知症の人向けの”というように紹介されることが多いですが、どなたにでも使うことができます。
例えば、ICUの患者さんや、自閉スペクトラム症をもつ小児に対しても、ユマニチュードを行うことでよい効果が得られたことが報告されています。
ユマニチュードは「見る」「話す」「触れる」「立つ」というコミュニケーションの要素を複数同時に組み合わせながらケアを実施する、という「マルチモーダル・ケアコミュニケーション技法」です。
さらに、すべてのケアについて「患者さんのところを訪れて、その方にケアを行い、その場を去るまで」を1つの物語(シークエンス)として実施します。
この技法の導入によって、認知症の行動・心理症状やケアに対する拒否の減少、看護師の職務に関する満足度の増加と離職率の低下、ICUのせん妄発症率や身体抑制の減少などの研究結果も報告されています。
ユマニチュードに基づくケア実施時のポイント
●「①見る」「②話す」「③触れる」「④立つ」の4つの柱によって構成される
●言葉によるメッセージと、 言葉によらないメッセージがある
●メッセージを相手に確実に届けるためには、トレーニングが必要
自分の行動が相手へのメッセージになっていることを意識する
「あなたのことを大切に思っています」ということを相手に理解してもらうための技術には、「①見る」「②話す」「③触れる」「④立つ」の4つの柱があります。
①見る
●看護に必要な身体的な情報を得るだけでなく、あなたのことを大切に思っていることを
相手が理解できるように伝える
●具体的には、正面から、近く(相手の認知機能に応じてその距離は異なる)、長く見る
②話す
●例えば、「検温です」「検査です」「じっとしていてください」などは、業務に必要なことを一方的に伝える言葉である。患者さんのことを大切に思っていることを伝えるためには、穏やかな低めの声で、前向きな言葉を選んで話す
●同じ採血をするのでも、「じっとしていてください」と告げるのと、「うまく採血できています。協力してくださってありがとうございます」と言うのでは、伝わるメッセージは大きく変わる
③触れる
●触れる手も常にメッセージを伝えている
●基本は触れている部分の面積を広くすることで、同じ力で触れていても感じる圧力を小さくする
●体位変換や着替えなどで、つい腕をつかんでしまいがちだが、それは「あなたの自由を奪っています」というメッセージとして伝わる。下から支える触れ方をすることで、「あなたのことを大切にしている」と伝えることができる
④立つ
●立つ、もしくは体を起こすことは、自分の周りの空間を認識するために非常に重要な姿勢で、肺の容積も広がり、呼吸器・循環器など生理的な改善効果が得られる
●着替えや洗面などのわずかな間でも立つ時間を確保することで、1日20分間立つことを目標にする
私たちが仕事をするときには、患者さんからの情報を得るために相手を見、話を聞き、触れることが主になりますが、それだけではなく、「自分も相手へメッセージを伝えている」という意識をもつことが大切だとユマニチュードでは考えています。
このメッセージには、言葉によるものも、言葉によらないものもあります。例えば、相手の目の高さと同じ視線に位置して見ることで、「あなたと私は平等な関係です」と伝えています。
相手の認知機能に応じた適切な距離にいることで、「私はあなたと親しい関係で、私に頼って大丈夫ですよ」と行動で伝えています。
さらに、仕事で行いがちな相手の腕や手首をつかんで動かす行為は、そんなつもりはなくても、相手には「あなたの自由を私が奪っています」というメッセージとして届いてしまっている可能性があるため、できるだけ広い面積で触れ、下から支えます。
そのほかにも、歩行介助の技術や体位変換の方法、清拭やおむつの替え方、食事介助の方法など、日常のケアを通じて「あなたのことを大切に思っている」というメッセージを届ける具体的な技術が、ユマニチュードを学ぶことで身につきます。
研修、 書籍、 映像、 アプリなどで学ぶことができる
「見る・話す・触れる」ことはとても基本的なことだし、自分はいつも気をつけている、とお考えの方はたくさんいらっしゃると思います。臨床医として働いてきた私もそうでした。
でも、実際に自分のケアの様子を映像で振り返ると、たくさんの課題が見つかることを経験し、またその課題はユマニチュードを学ぶことで解決できることも経験しました。
いつも「あなたのことを大切に思っています」というメッセージを相手に届くように発することができるようになるためには、トレーニングが必要です。ユマニチュードを学ぶときに最も効果の高い方法は、研修に参加することです。
現在、ユマニチュードの入門研修が全国で開催されています。インストラクターが病院を訪問して、講義だけでなくケアに困っている患者さんのケアを一緒に行うことで具体的に学べる訪問型研修も始まりました。
また、書籍や映像で自習することもできます。東京医療センター高齢者ケア研究室のYouTubeチャンネルでは、家族を介護している方々が映像で学ぶこともできます。
さらに、現在、ユマニチュードを用いたケアはなぜうまくいくのか、その理由を科学的に探索する研究が京都大学や九州大学の情報学や心理学の専門家によって進められています。それをもとに、ケアを客観的に評価する方法も開発されました。ケアの評価に人工知能を利用する技術も実用化され、現場で役に立っています。
自分が「よい看護・ケア」を提供したいと思っている気持ち(哲学)と、実際に行っているケア(行動)を一致させるための道具がユマニチュードです。どなたでも学ぶことができます。そして一度身につければ、忘れることはありません。ぜひ、試してみてください。
●ユマニチュード研修
https://humanitude.care/
●東京医療センター 高齢者ケア研究室 YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/channel/UCHopS0wOt0R9Iun1ZH5fpLg
- 1.本田美和子,イヴ・ジネスト,ロゼット・マレスコッティ:ユマニチュード入門.医学書院,東京,2014.
「医療・看護の知っておきたいトピック」シリーズの記事はこちら
この記事は『エキスパートナース』2021年4月号の記事を再構成したものです。
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