事例④ 退院して施設に戻る患者さん。施設への注意点を円滑に伝えるには?

 入院前は施設に入所していた患者さん。退院後は再び施設に戻る予定ですが、入院を経て、生活上で注意すべきポイントが増えました。それらは施設のスタッフにも伝えておかなければなりませんが、施設として対応できる内容には限度があります。双方の立場と患者さんの生活を尊重しながら、うまく引き継ぎを行う方法を考えていきます。

患者さんの情報

●80歳代後半・女性        
●発熱があり、痰の量が増えたことで外来受診。誤嚥性肺炎の診断で入院となった。
●既往に高血圧、右変形性股関節症(10年前に人工骨頭置換術を施行)。
●半年前にも誤嚥性肺炎で3週間ほど入院した経緯がある。入院前は有料老人ホームに入所。認知機能に問題はなく、施設では杖歩行で身のまわりのことはできていた。
●夫とは死別しており、子どもはいない。家族は10歳年下の妹がいるが、県外在住のため、入院時と退院時に訪れる程度。
●入院から1週間は抗菌薬投与・酸素投与にて治療を行った。ベッド上安静にて、リハビリは病室内で行い、見守りありでポータブルトイレを使用。食事はきざみ食にとろみをつけたもので、言語聴覚士(ST)が介入している。
●2週間が経ち、肺炎所見に改善がみられていたが、治療に伴いベッド上安静が続いた。そのため、現段階で杖歩行はできず、歩行器でようやく移動できるレベル
●もともと問題がなかった認知機能にも低下が見られており、ナースコールを押さずに歩行器で歩こうとする場面があるため、センサーマットを必要としている。さらに、食事をとったことや薬を飲んだことを忘れる場面も出てきている。
●今後はもともと入所していた有料老人ホームへと退院予定で、トイレは歩行器を使用しつつ自立してできなければならず、服薬管理も自己にて行う必要がある。また食事や飲み物についても、個別対応が必要になるが、施設側にお願いをしても断られる状況になっている
 
※事例は、メディッコメンバーの経験に基づいて設定した架空のものです。

たみお

たみお

理学療法士(PT)、11年目。慢性期病院での外来リハビリテーションを経験し、現在は訪問リハビリテーションに従事している。

みややん

みややん

言語聴覚士(ST)、11年目。急性期、回復期病院での勤務経験を経て、現在は訪問事業所で勤務。病院と在宅とでの立ち振る舞いの違いを肌で感じている。

かなこ

かなこ

看護師、11年目。内科病棟での勤務経験ののち、現在は手術室看護師として勤務している。

おぬ

おぬ

社会人経験を経て看護師になり、10年目。精神科では7年目。脳外科、回復期リハビリテーション病棟、在宅看護を経験し、現在は精神科救急病棟で勤務。

ぽりまー

ぽりまー

薬剤師、6年目。3年間、薬局薬剤師を経験後、現在は医療系メディアの編集部に勤務。前職で職場間・職域間の連携に問題意識をもったのをきっかけにメディッコに入った。

メディッコメンバーの視点

たみお(理学療法士) 今回のように、離床したくてもできずにADL能力が低下してしまう患者さんは、現場でもよく見ますね。
 誤嚥性肺炎を繰り返すたびに運動機能は低下してしまうので、今後も繰り返さないように施設と連携をとっていきたいところですが、認知機能の低下も見られているため難しい症例だと思います。

みややん(言語聴覚士) 年齢と既往からみて、今後も誤嚥性肺炎を繰り返す可能性が高いケースですよね。施設(有料老人ホーム)では食事形態がある程度決まっていますし、食事介助の方法や注意点を細かく伝えても、施設内で周知しきれないことが多いと思います。施設のマンパワーや特色も、こちらで理解する必要がありますね。

かなこ(看護師) 施設に戻ることになったとき、病院での対応をそのまま引き継ぐことが難しいケースは過去に何度もありました。施設には施設の事情があるので、病院が一方的に意見するのではなく、双方で話し合い、患者さんにとっての最良を見つけていけるとよいですね。

おぬ(看護師) 施設にもよりますが、僕の経験でも入院を経てADLと認知機能が低下してしまい、再入所が難しくなり、別の施設を探すところからスタートするケースがありました。
 また、退院後は服薬の自己管理が求められますが、今のままだと飲み忘れが多くなりそうなので、それにどう対応していくかも課題です。
 入院中にけがなどをしないよう十分注意して、これ以上ADLが低下しないよう気をつけなければいけませんね

ぽりまー(薬剤師) そうですね。確かにこの患者さんは、認知機能の低下による服薬管理での懸念があります。
 一方で、既往は高血圧と右変形性股関節症(人工骨頭置換術によって治療)のみで、高齢なこともあり、退院後の定期処方は服薬回数も種類もそんなに多くなさそうな印象です。考えられるのは、降圧薬と鎮痛薬、便秘薬あたりでしょうか。
 また、患者さんが睡眠薬を服用している場合、それが認知機能に影響を与えることもあります。看護師さんには、患者さんに睡眠薬を渡す際、薬剤の種類と用量、飲んだ日付と時間を記録しておいてもらえると、薬剤師としてはとても助かります。
 入院前には認知機能に問題がなかったということなので、認知機能の低下はもしかしたら一時的なものかもしれないですよね。患者さんの現状をしっかり評価したうえで、施設と相談できるとよいのかなと思いました。