臨床推論は2つのプロセスを経て行われる
臨床推論はどのように行われるのでしょうか。臨床推論は、「直観+分析」の2つのプロセスで行われます。
臨床推論のプロセス① 直観的プロセス
直観的プロセスは、「システム1」とも呼ばれ、迅速であり、通常正しいものです。直観的プロセスは、臨床経験や学習から学んだ知識の蓄積から行われ、経験豊富であればあるほど正確度は大きいとされています。
直観的プロセスの知識のなかで特に重要な事項を「クリニカルパール」と呼びます(下記)。経験豊富な臨床家は、無意識に数多くのパールを使って直観的に推論しています。ただし、ときにバイアスに陥る危険性があります。
クリニカルパール(脳卒中の例)
脳卒中と思われる患者さんでは、50%のブドウ糖液を50mL静脈投与するまで脳卒中と判断できない。
Lawrence M Tierney Jr.(UCSF)より
この症例では、「意識障害」に対する直観的プロセスの迅速性と正確性が示されています。低血糖の除外のため簡易血糖チェックを行うべきということは、クリニカルパールとなっているのです。
このクリニカルパールは、低血糖でも局所神経脱落症状(右上下肢不全麻痺)をきたしうることを示唆しています。冷汗と手指振戦は低血糖における重要な症状です。
また、薬剤性低血糖では、カテコラミン(アドレナリンなど)などのインスリン拮抗ホルモンが血中に動員されるため、血圧も上昇します。
臨床推論のプロセス② 分析的プロセス
直観的プロセスで解決できない場合、分析的プロセスを発動させます。分析的プロセスは、「システム2」とも呼ばれ、網羅的であり、バイアスを避けることができるものです。
分析的プロセスのツールとして、さまざまなネモニクス(頭文字による記憶法)があります。代表的なネモニクスとして、皆さんもご存じの意識障害の鑑別診断における「AIUEO-TIPS」があります。
分析的プロセスで診断を絞り込んでいくときに重要なことは、以下の「3つのC」を常に考慮することです。
・頻度の多い疾患(common disease)
・頻度は少ないが見逃してはならない重篤な疾患(critical disease)
・治療可能性のある疾患(curable disease)
また、分析的プロセスで複雑な鑑別診断を考えるときに助けとなるツールとして、VINDICATE-P(ヴィンディケートピー)もあります。
これらのツールを有効に使って、診断を導き出していきます。
実際の臨床場面で望まれるのは、シンプルケースでは直観的プロセスを使い、複雑なケースでは分析的プロセスを使うということです。この「2重プロセス理論(dual process theory)」が、実際に行われている臨床推論を説明しているといえるでしょう。
- 1.ジェローム・グループマン著,美沢惠子訳:医者は現場でどう考えるか.石風社,福岡,2011.
ナースの臨床推論【第2回】食後の嘔気・嘔吐、両下肢の脱力としびれ[Step1]症状・病歴を詳しく尋ねる
この記事は『エキスパートナース』2018年10月号特集を再構成したものです。
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