患者さんの訴えや症状をもとに、どのような疾患の可能性があり、どのような検査・治療を行えばいいのかを導き出していく思考過程を「臨床推論」といいます。この連載では、隠された疾患を見逃さないため、ナースが気づきたいポイントを紹介します。
【第1回】患者さんの訴えの裏に潜む“疾患”に気づくために
まずは、臨床推論を行う際にたどる過程を紹介。意識障害を呈する患者さんの症例についてみていきます。「直観+分析」の2つのプロセスの使い方も押さえておきましょう。
●ナースは自然に「臨床推論」を行っている
●臨床推論は2つのプロセスを経て行われる
・臨床推論のプロセス① 直観的プロセス
・臨床推論のプロセス② 分析的プロセス
【第2回】食後の嘔気・嘔吐、両下肢の脱力としびれ[Step1]症状・病歴を詳しく尋ねる
発症前のことから発症に至る経過について、詳しく聞くことが大事です。具体的なシーンを想像しながら質問すると、発症の特徴がわかり、疑わしい疾患が推測できます。
事例①「食後の嘔気・嘔吐」「両下肢の脱力・しびれ」で緊急搬送された男性
・この状況で鑑別が必要な疾患
●第1ステップ 症状・病歴を詳しく尋ねる
・「突然」といってよいほど短い時間に発症
・突然の発症は、脳血管疾患、循環器疾患を疑う
【第3回】食後の嘔気・嘔吐、両下肢の脱力としびれ[Step2]フィジカルアセスメント
食後の嘔気・嘔吐、両下肢の脱力・しびれで緊急搬送されたAさんのフィジカルアセスメントで、気づきたいポイントをチェック。突然の発症であったことと合わせて臨床推論を行います。
●第2ステップ フィジカルアセスメント
・Aさんのフィジカルアセスメント(身体所見)
【第4回】食後の嘔気・嘔吐、両下肢の脱力としびれ[Step3]気になる情報をさらに深める
これまでの推論から導き出せる、可能性の高い疾患について考えます。緊急性の高い疾患が疑われたら、否定できるまで最悪のシナリオに備える必要があります。
●第3ステップ 気になる情報をさらに深める
・緊急性の高さを考慮する
【第5回】食後の嘔気・嘔吐、両下肢の脱力としびれ[Step4]追加のアセスメントと画像
胸部単純X線と胸腹部造影CTの画像を確認。その結果、上行大動脈から下行大動脈、腹部大動脈を越えて総腸骨動脈に至る解離が認められました、その結果から診断された疾患とは…?
●第4ステップ 追加のアセスメントと画像
手術・処置:半弓部人工血管置換術および大動脈-両側大腿動脈バイパス手術
【第6回】食後の嘔気・嘔吐、両下肢の脱力としびれ[まとめ]ナースが見抜きたいポイント
【第2回】~【第5回】を踏まえて、ナースが見抜きたいポイントをまとめています。まれな疾患でも、起こる結果が重大なら鑑別に挙げるように。疑うことが重要です。
●患者さんの「急に」の具体的内容を聞き出す
●両足麻痺は脳梗塞の可能性が低い
●脈拍の消失や血流障害がなくても、急性大動脈解離の可能性がある
●急性大動脈解離は危険な疾患。真っ先に診断を確定もしくは除外する
●急性大動脈解離は造影CTによる診断が第一選択
●急性大動脈解離の初発症状は疑うことが大事
【第7回】全身倦怠感と食欲低下[Step1]症状・病歴を詳しく尋ねる
全身倦怠感や食欲低下を訴える患者さんの事例を取り上げます。症状が現れたときの様子に加えて普段の生活を詳細に聞くことで、患者さんの全体像が明確になります。
事例➁2日前から続く全身倦怠感や食欲低下を主訴に受診した女性
●第1ステップ 症状・病歴を詳しく尋ねる
・症状が発症したときのできごとや様子を確認する
・患者さんの全体像を把握するような質問をする
・本人の背景となる情報をさらに詳しく聞く
・発症前の状況をさらに詳しく聞く
・悪化し続ける経過と失禁は疲労だけでは説明できない
【第8回】全身倦怠感と食欲低下[Step2]フィジカルアセスメント[Step3]気になる情報をさらに深める
判断材料を増やすため、フィジカルアセスメントを実施。また、症状が出る前日に行ったというハイキングにおいて、変わった様子がなかったかを詳しくヒアリングします。
●第2ステップ フィジカルアセスメント
●第3ステップ 気になる情報をさらに深める
【第9回】全身倦怠感と食欲低下[Step4]追加のアセスメントと画像
ハイキング中に尻餅をついたとの情報から、身体所見を追加で取ることに。右上肢運動低下、頭部診察の所見から頭蓋内占拠性疾患の存在を疑い、頭部CTを撮像すると…?
●第4ステップ 追加のアセスメントと画像
●手術・処置:緊急開頭術およびドレナージを実施
【第10回】全身倦怠感と食欲低下[まとめ]ナースが見抜きたいポイント
有力な情報が主訴以外少ない場合、症状前後の時間軸に焦点を当てた病歴や患者背景の把握がポイントに。普段とどのように違うのか、“開いた質問(open question)”で尋ねましょう。
●高齢者の、説明のつかない”全身倦怠感”は危ない
●症状前後の時間軸に焦点を当てた病歴や患者背景をチェック
●鑑別が難しいときこそ、問診を
●“開いた質問”で回答を引き出す
●「システム3診断」で診断を決定づける
1)患者さんの「きっと~かもしれない」から診断を引き出す
2)思考をストップしないために、常に疑問をもつ
●バイタルサインが何よりも重要
【第11回】発熱を訴える肺炎患者[Step1]症状・病歴を詳しく尋ねる
ある日いきなり眠り続け、発熱のため救急搬送、誤嚥性肺炎と診断された事例。問診を行う際には、全身を系統的にチェックするReview of systems(ROS)をとるようにします。
事例➂「発熱」で救急搬送された女性
●第1ステップ 症状・病歴を詳しく尋ねる
・「よくある疾患」に隠れた疾患を見逃さない!
・発症時の状況や、家族の行動を確認する
・患者さんや家族の話を聞き漏らさないために、ROSを利用する
【第12回】発熱を訴える肺炎患者[Step2]フィジカルアセスメント、[Step3]気になる情報をさらに深める
肺炎と診断されたものの、発熱や意識障害がありました。また、酸素量を増やして投与してもSpO2が改善されなかった点にも注意。母親への問診を行い、追加の身体所見を取ります。
●第2ステップ フィジカルアセスメント
●第3ステップ 気になる情報をさらに深める
【第13回】発熱を訴える肺炎患者[Step4]追加のアセスメントと画像
心電図、胸部CT造影、下肢静脈超音波の所見から、診断が確定。補液と抗菌薬の投与に加え、ヘパリンを投与し、入院後3週間で退院することができました。診断の結果とは?
●第4ステップ 追加のアセスメントと画像
●手術・処置:ヘパリン投与、退院後はワーファリン内服
【第14回】発熱を訴える肺炎患者[まとめ]ナースが見抜きたいポイント
呼吸困難の原因は1つとは限らないため、しっかり病歴と身体所見をとることが重要です。酸素投与に対する反応が悪い場合は、肺塞栓の可能性を考慮します。
●呼吸不全の原因・病態だけでなく、身体所見を詳しくとる
●行った治療の効果が見られなければ、病歴と所見をとり直す
●肺塞栓は見逃されやすいため、疑わしい所見を見逃さない
●血栓は1日以内にできることもある
【第15回】「風邪をひいたので風邪薬がほしい」と訴える患者[Step1]症状・病歴を詳しく尋ねる
鼻水、咳、体のだるさを訴える患者さんの事例を紹介。「風邪」との訴えで受診した場合でも、慎重な判断が必要です。上気道炎症状の重篤な疾患についてまとめています。
事例④「鼻水、咳、体のだるさ」を主訴に受診した男性
●第1ステップ 症状・病歴を詳しく尋ねる
・「風邪」が主訴の診断は慎重に行う
・上気道炎症状に重篤な疾患が隠れていることがある
●本当に上気道炎症状か(鼻汁を伴うか)に注目
【第16回】「風邪をひいたので風邪薬がほしい」と訴える患者[Step2]フィジカルアセスメント、[Step3]気になる情報をさらに深める
まずは呼吸数の多さから原因を鑑別。病歴と合わせて判断します。また発熱はなく、血圧は正常範囲ですが、脈拍がやや速いため、ショックの可能性を考えます。
●第2ステップ フィジカルアセスメント
・呼吸数に着目し、原因を鑑別する
・バイタルサイン全体を読み、ショックの可能性を判断する
・上気道炎症状を呈する重篤疾患と照らし合わせる
●第3ステップ 気になる情報をさらに深める
【第17回】「風邪をひいたので風邪薬がほしい」と訴える患者[Step4]追加の画像とアセスメント
呼吸数の多さと口臭異常=ケトン臭から糖尿病性ケトアシドーシスを疑い、血糖測定を行いました。血糖測定は簡便かつ迅速で、意識障害では必須の検査です。
●第4ステップ 追加のアセスメントと画像
・追加の身体所見
●手術・処置:大量輸液とインスリン持続投与を実施
・劇症1型糖尿病とは?
【最終回】「風邪をひいたので風邪薬がほしい」と訴える患者[まとめ]ナースが見抜きたいポイント
患者さんが「風邪」と訴えても、重篤な疾患が隠れている場合もあります。小さな異常も見逃さないように心がけ、しっかり鑑別することが大事です。
●主訴を鵜呑みにせず、常に重篤な疾患を念頭に置く
●バイタルサインの小さな異常も見落とさない
●診断を振り返り、同僚と共有する