患者さんの訴えの裏に隠された疾患を見逃さないために大切な「臨床推論」。どのような思考過程を経て臨床診断を導き出しているのかを考えていきます。今回は第7回で紹介した全身倦怠感や食欲低下を訴える患者さんの事例の、追加の身体所見とCT所見を紹介します。

第4ステップ 追加のアセスメントと画像

追加の身体所見

●四肢体幹に出血斑なし
●四肢関節の可動域問題なし、自発痛なし
●バレー徴候、腕まわし試験で軽度右上肢の運動低下
●眼底でうっ血乳頭なし
●網膜静脈拍動はなし
●耳鏡は両側鼓膜に特に異常所見を認めず
●頭部診察上で明らかな外表上の所見なし
●頭部の打診で、左半球が右に比べわずかにdull(にぶい)の印象

 高齢者の転倒はそれがささいなものであっても、ときに重大な問題を引き起こすことがあります。退行性変化や栄養・ホルモンバランスにより筋骨格、血管系などが脆弱化しているため、外傷によるダメージに弱いからです。
 そのため、念のため追加で診察を行い、軽度の右上肢の運動低下や左半球が右半球に比べてにぶい印象がありました。

 病歴上ハイキング中の転倒、軽度血圧上昇および脈拍数の低下から、「脳圧亢進(クッシング現象)」を疑いました。さらに、腕まわし試験の右上肢運動低下、頭部診察の所見から頭蓋内占拠性疾患の存在を疑い頭部CTを撮像しました。

 その結果、CTで頭蓋内左側に「硬膜下血腫」を認めました(図1)。軽度ミッドラインシフトもあり、血腫の濃度からは、出血が比較的新しいものであることが疑われました。

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