患者さんの訴えの裏に隠された疾患を見逃さないために大切な「臨床推論」。どのような思考過程を経て臨床診断を導き出しているのかを考えていきます。今回は「鼻水、咳、体のだるさ」を主訴に受診した患者さんの事例を紹介。まずは症状・病歴を詳しく尋ねます。
事例④「鼻水、咳、体のだるさ」を主訴に受診した男性
Dさんは(40代・男性)は、夫婦2人と6歳の息子の3人暮らしです。「鼻水、咳、体のだるさ」を主訴に受診しました。受診当日は食欲がなく、朝食はおかゆ、昼食はサンドウィッチを少々食べています。喉の渇きが強く、水や日本茶をいつもより多めに摂っていました。だるさが強く18時に仕事から帰宅し、引き続き食欲がなく、妻の勧めで夜間外来を受診しました。4日前は鼻水、3日前は咳・咽頭痛、2日前はだるさがみられています。2週間前に息子が上気道炎症状、数日で改善しています。既往は特になし。
その他の情報
●営業職。この半年は海外出張・旅行はなし。
●性交渉は妻のみで、コンドームにより避妊。
●定期的に献血。最近の献血でも健康診断でも異常の指摘はなし。
●健康食品・サプリメントの摂取なし。
●最近の体重減少、気分の落ち込み、興味の低下はなし。
●アルコールは週に3日程度、ビールを1回に350mL程度だが、この1週間は飲酒していない。喫煙歴はない。
●ジョギングが趣味で、週に3日、8km走っているが、この1週間は走っていない。
●ウイルス性心筋炎
●甲状腺中毒症
第1ステップ 症状・病歴を詳しく尋ねる
「風邪」が主訴の診断は慎重に行う
患者データは、冒頭に示した通りです。
発症後に軽度の吐き気と食欲不振はあったものの、水分は十分にとっており、発熱、悪寒戦慄、頭痛、関節症状もありませんでした。インフルエンザの流行期ではなく、他の感染症の流行は明らかではありません。会社の同僚で同じような症状を示している人はいないとのことです。なお、Dさんに特記すべきアレルギー歴はありませんでした。
受診当日は喉の渇きがあり、水分を多めに摂取していたとのことでした。来院時、動悸、息切れ、胸痛、腹痛、下痢・便秘はありませんでした。
Dさん本人は風邪と思って来院しており、「風邪をひいたので風邪薬がほしい」とナースに訴えました。ここで、「風邪」と訴える患者さんの自己診断が正しいかどうかは、慎重に判断すべきです。
体調の変化を、身近な言葉である「風邪」と表現してしまう患者さんは多いですが、たかが風邪、されど風邪です。「咳、息切れ=風邪」と表現していた心不全の患者さんや、「発熱・全身倦怠感=風邪」がじつは感染性心内膜炎であったケースなど、風邪と訴えて受診する患者さんの鑑別診断はきわめて広いです。
上気道炎症状に重篤な疾患が隠れていることがある
では、短時間でアセスメントを立てるには、どのように病歴を整理すべきでしょうか。
上気道炎症状を主訴に受診する重篤な疾患は、①ウイルス感染そのものが原因となる急性疾患、②上気道炎症状を呈する重篤な疾患の2つに分けられます(下記参照)。
①は、ウイルス性上気道炎の罹患をきっかけに重篤な疾患に進展する疾患です。ウイルス感染そのものが原因となる重篤な急性疾患と言い換えてもよいでしょう。
そして②が、上気道炎症状を呈する重篤な疾患です。
この記事は会員限定記事です。