患者さんの訴えの裏に隠された疾患を見逃さないために大切な「臨床推論」。どのような思考過程を経て臨床診断を導き出しているのかを考えていきます。今回は第2回で紹介した「食後の嘔気・嘔吐」「両下肢の脱力・しびれ」で緊急搬送された男性の事例について、可能性の高い疾患を探るための情報収集のポイントを解説します。

第3ステップ 気になる情報をさらに深める

緊急性の高さを考慮する

 突然の発症ということ、両鼠径部で脈拍が触知できずに冷感があることから、動脈が急性に閉塞したことが考えられます。
 可能性の高い疾患は、両総腸骨動脈分岐部を閉塞させた急性動脈閉塞か、急性大動脈解離です。 

①急性動脈閉塞

 急性動脈閉塞では緊急手術が必要になります。動脈閉塞のうち、総腸骨動脈分岐部で閉塞しているものは、大動脈炎症候群に伴う閉塞など慢性的なもの(Leriche症候群)が多いです。
 急性閉塞の場合は、心臓内血栓や壁在血栓が血流にのって動脈を閉塞させることが多いですが、この部位を閉塞させるほど大きな血栓はまれです。

②急性大動脈解離

 急性大動脈解離の場合、破裂すると致命的ですが、適切な時期に手術できれば救命可能なことも多いため、可及的すみやかに診断する必要があります。
 緊急性の高い疾患が疑われたら、否定できるまで最悪のシナリオに備えます。大動脈解離のために上腸間膜動脈が閉塞されていると、腹痛や嘔吐も起こります

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