頭痛患者を受け持ったときの視点「その頭痛は、 本当に緊張型頭痛?」

 頭痛患者に遭遇したときに、「肩こりはありませんか?」と聞いてみた経験をもつ方は多いと思います。肩こりがある頭痛は緊張型頭痛という印象をもたれていることから、この質問がなされることが多いと思います(みなさんのなかにも、自身の頭痛を「緊張型頭痛」だと思っている人が、結構いるのではないでしょうか)。

 しかし、肩こりは片頭痛にも多いことが知られています。実際、肩こりは緊張型頭痛と片頭痛の診断基準には含まれていません。

 片頭痛は拍動性で、名前から片側性と思われがちですが、実際には両側性で非拍動性の片頭痛も存在します
 緊張型頭痛と片頭痛では片頭痛のほうが日常生活への支障度が高いため、二次性頭痛を除外できれば、片頭痛の可能性を考慮し、片頭痛の診断基準に照らし合わせることが重要です。片頭痛の可能性を疑い、片頭痛の治療ラインに乗せることは、患者さんにとって大きなメリットにつながります。

おさえておきたいこと

頭痛治療と『慢性頭痛の診療ガイドライン』のポイント
●2000年以降、新治療薬の登場などの取り組みが活 発化しており、2013年に『慢性頭痛の診療ガイドライン2013』が刊行された
●片頭痛に有効な薬剤も開発されるなど知見の更新があったことから、改訂版である『頭痛の診療ガイドライン2021』が刊行された

治療の目的と『慢性頭痛の診療ガイドライン』

 片頭痛の治療には薬物療法非薬物療法があります。前者には急性期治療や予防療法があり、後者には認知行動療法や理学療法などがあります。治療の目的としては、痛みの軽減、生活機能の回復および頭痛の頻度の減少などが挙げられます。

 本邦では2000年以降、急性期治療薬であるトリプタンの登場や片頭痛予防薬であるバルプロ酸プロプラノロールなどの世界標準薬の認可などから、頭痛医療全体の取り組みが活発化し、2013年には『慢性頭痛の診療ガイドライン2013』が刊行されました。

 頭痛医療のさまざまな項目のClinical Question(CQ)が設定され、推奨グレードやエビデンスレベルを示すことで、科学的根拠に基づいた頭痛医療を支援することができるようになりました。

 こうした頭痛医療の推進があったにもかかわらず、片頭痛患者のアンメットニーズは常に存在していました。

 近年、これらのアンメットニーズに対応するため、新規治療の開発が進みました。カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)が片頭痛の病態に深く関与することが明らかになり、CGRPを標的にした薬剤の開発が進み、脚光を浴びました。

 本邦の臨床試験でもCGRP関連薬剤であるガルカネズマブ、エレヌマブ、フレマネズマブのいずれもが有意な片頭痛日数の減少、少ない有害事象、良好な忍容性が示され、2021年に上市されました。月1回の皮下投与であることもあり、リアルワールドにおいても片頭痛患者からの評判は上々で、今後、片頭痛治療のパラダイムシフトが予想されています。

 新たな知見が集積したため、8年ぶりに『頭痛の診療ガイドライン2021』として改訂されました3。 本ガイドラインでは、CGRP関連薬剤とこれまで記載が少なかった二次性頭痛についてのCQが多数加わり、頭痛に携わる医療者のニーズにさらに幅広く対応しています。

*【アンメットニーズ】生命に直結はしないものの有効な治療方法がない疾患等に対する、医療的な要望のこと。

1.Sakai F,Igarashi H:Prevalence of migraine in Japan: a nationwide survey.Cephalalgia 1997;17(1):15-22.
2.日本頭痛学会・国際頭痛分類委員会訳:国際頭痛分類 第3版.医学書院,東京,2018.
3.頭痛の診療ガイドライン作成委員会編,日本神経学会,日本頭痛学会,日本神経治療学会監修:頭痛の診療ガイドライン2021.医学書院,東京,2021.

1.Classification and diagnostic criteria for headache disorders,cranial neuralgias and facial pain.Headache Classification Committee of the International Headache Society.Cephalalgia 1988;8(Suppl 7):1-96.
2.Headache Classification Committee of the International Headache Society(HIS)The International Classification of Headache Disorders,3rd edition.Cephalalgia 2018;38(1):1 -211.
3.慢性頭痛の診療ガイドライン作成委員会編,日本神経学会,日本頭痛学会監修:慢性頭痛の診療ガイドライン2013.医学書院,東京,2013.

この記事は『エキスパートナース』2022年6月号の記事を再構成したものです。
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