医療だけに限りませんが、ひとを相手にする職業は正しい知識、技術を提供しなければなりません。
それは正しい知識や技術を提供しなければ効果が得られないことや、ときには害となることさえあるためです。
 今回の連載である酸素療法も同様で、効果はもとより、患者さんの快適性を保てないことや、酸素による副作用を与えてしまう危険性もあるのです。近年、さまざまなデバイスが存在する酸素療法を、もう一度基本から理解してみましょう。

酸素療法のしくみ

 身体に酸素が十分に供給されず、細胞のエネルギー代謝が障害された状態を低酸素症といいます。そうした状態を改善する方法が酸素療法です。適量の酸素を投与することで吸入気の酸素濃度(FIO2)を高めます

 酸素療法に必要なものは、酸素供給装置、酸素流量計、加湿器、酸素吸入器具などがあります。

酸素投与方法の種類:低流量システムと高流量システム

 酸素吸入器具には、低流量システム高流量システムがあります(図1)。

 低流量システムと高流量システムの違いはひと言で言うと、吸入する酸素濃度を“一定にできるか”“一定にできないか”の違いです。それだけ覚えて低流量システムと高流量システムの違いを理解してもよいかもしれません。

 ただ、この2つのシステムの違いをきちんと理解することで、より丁寧な酸素療法につながるので、しばしお付き合いください。

図1 酸素投与に用いる「低流量システム」「高流量システム」のデバイス
酸素投与に用いる「低流量システム」「高流量システム」のデバイス

低流量システム・高流量システムの違い

よく言う「酸素3リッター」は、正確には「“1分間”に3リッター」である

 よくありがちな臨床での会話で、以下の場面があります。

医師「酸素3リッター流しておいて」
看護師「3リッター流しておきます」

 もちろんこれで会話は成り立ちます。しかし正しくは、

医師「酸素を1分間に3リッター流しておいて」

です。正しく記録するならば酸素3L/分(min)投与になります。この〇L/分という表記を覚えておいてください。

成人男性は、「1分間に30L」の空気を吸っている

 次に、一般的な成人男性の空気を吸う速さや量の話に移ります。成人男性が1回の呼吸で吸い込む空気の量は約500mLです。空気を吸い込む時間を1秒とすると、500mL/秒という速さで空気を吸っていることになります。

 ここで吸気流速という言葉が出てきます。吸気流速とは“空気を吸い込む速度を表す言葉”で、吸気流速はL/分という単位で表します。先ほどの500mL/秒を吸気流速の単位(L/分)に置き換えるには、単位をリッターと分に直します。

計算式

500mL/秒(sec)÷1,000mL=0.5L/秒
0.5L/秒×60=30L/分
※1L=1,000mL

 つまり、一般的な成人男性は吸気流速30L/分で空気を吸っていることになります。

違いを理解するカギは「吸気流速」

 ここで酸素投与の話に戻ります。酸素投与の表記は〇L/分でした。

 この単位は吸気流速(L/分)と同じ単位になります。成人男性は吸気流速30L/分あるところに、1~15L/分の酸素を流している(注:低流量の場合の酸素流量)ということになります。

 イメージとしては、吸気流速30L/分の吸気の流れに、濃度100%の酸素を1~15L/分、流している感じです。いくら酸素15L/分を流したとしても、残りの15L/分は室内空気を吸入してしまうことになります。

 また、吸気流速は患者さんの年齢や体格、疾患によっても影響を受けるため、吸入している酸素濃度は一定ではありません

 そこで酸素濃度を一定に保つには、特殊な構造で酸素濃度や吸気流速を調節するベンチュリーマスクやベンチュリーネブライザー、または30L/分以上の流速で酸素を送るハイフローセラピーを用いる必要があります。これらを高流量システムといいます。

 それ以外の経鼻カニューレや簡易型酸素マスク、リザーバーマスクによる酸素投与は、すべて低流量システムによる酸素投与です。

1.宮本顕二:ネブライザー付酸素吸入器(インスピロンネブライザー アクアパックネブライザー)で高濃度酸素吸入はできない.日本呼吸器学会雑誌 2005;43(9):502-507.
2.磨田裕:加温加湿と気道管理 人工気道での加温加湿をめぐる諸問題.人工呼吸 2010;27(1):57-63.
3.西田修監修,竹田晋浩編:ハイフローセラピー実践マニュアル.ライフ・サイエンス,東京,2014.

この記事は『エキスパートナース』2019年8月号特集を再構成したものです。
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【第2回】低流量システム・高流量システムの使い分け
【第12回】SpO₂が100%のままでの管理でいい?
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