2024年11月下旬、冷たい雨が降り、真冬並みの寒さとなった日。紀伊國屋書店新宿本店で『エキスパートナース』主催のトークイベントを開催しました。

 人々の学習環境や情報収集の方法が変化している今、雑誌の役割も問われているところ。読者の皆さんに、「もっと専門雑誌のことを知ってほしい」。そんな思いから、このイベントが生まれました。

 スペシャルゲストとしてお迎えしたのは、編集者のたらればさん。古典文学などについてつぶやく犬のアイコンを、Xで見かけたことがある方もいるのではないでしょうか。

 たらればさんと『エキスパートナース』編集長が、いまの時代だからこそ専門雑誌を読んでほしい理由を語り合いました。

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たらればたられば

古典文学をはじめ、さまざまな情報をSNSで発信する編集者。フォロワー数は23万人以上。かつて『エキスパートナース』のなかでその名前が掲載されたことも。@tarareba722

『エキスパートナース』編集長えきすぱーとなーすへんしゅうちょう

『エキスパートナース』本誌とwebの編集長。エキナスの公式Xでいつも漫画の話をしている。@ExpertNurse_EN

映画やCDのように、雑誌を楽しむ

編集長 ちょっと話を変えまして…。たらればさんは雑誌をどういうふうに読まれていますか?読み方みたいなことが何かあれば。

たられば 奥付けから読みます。雑誌の最後の方、編集後記や編集長の名前などが書いてあるところですね。印刷所はどこを使っているのかなとか。

編集長 え、昔からですか。

たられば そう、前から。大学生の頃からですね。編集方針など編集長の色が出るのが、雑誌の1番面白いところだと思うんです。映画を観に行くときに監督を調べるみたいな感じですよね。奥付けを見るの、楽しいですよ。

編集長 『エキスパートナース』では最後の次号予告のところに、編集者全員が編集後記を書いています。私は漫画の話とかをしてたりするんですけれど(笑)。編集後記から読むという方も結構いらっしゃるので、楽しんでいただけたらと思っております。

たられば 好きなアーティストのアルバムを買ったら、シングルカットしている曲から聴いたりしますよね。それと一緒で、雑誌も好きなところから読んでいけばいいんじゃないかと思います。

編集長 そうですね。ちなみに、編集後記から読む方っていらっしゃいます?(客席から笑い声)。いないか(笑)。台割(※)という本の設計図があるんですが、私、台割を作るの大好きなんですよね。

※台割…誌面の各ページのどこに何を載せるのかを割り振ったもの。

たられば そういうタイプか!編集部でチクチクとね。けっこういじりますか?

編集長 そう。でもね、なんか見えてくるときがあるんですよ。

たられば これだ!って?

編集長 はい。台割には編集長の思想が出るというか、物語を作るみたいに私は組んでいるんですね。 最初にこういう記事を入れて、特集、連載があって、特別記事が載るときはこれをどこに入れたら1番しっくり収まるかを考えます。なので、雑誌全体が編集部からのメッセージと思って読んでいただきたいなと。これ、実は最後に言おうと思ったことをもう言ってしまったんですけど(笑)。

たられば 昔は台ごとに折(※)が変わると印刷の時間が変わり、見開きページの右側と左側でインクのノリが違うから特集は1折にまとめよう、といったこともありました。今は技術が向上して印刷時間が短くなり、そこまで考えてる人も少ないとは思いますが。しかも平綴じ(※)だしね。

※折…印刷した用紙を冊子(雑誌)のサイズに折りたたむ工程のこと。
※平綴じ…ページの端から約5mmの位置を1~3か所ホチキスでとめる製本方法。

編集長 そうですね。

たられば マニアックですよね。どこから説明したらいいんだろう…。雑誌って16ページごとに印刷していくんですよ。ものすごく大きい紙に印刷して、折って、断裁する。これは豆知識ですが、世の中の印刷物はだいたい16の倍数になっております。漫画でおまけページが少ないときと多いときがあるでしょ。あれはページが16の倍数にうまく収まったときと、そうじゃないときです。…大丈夫?こんな話で。『光る君へ』の話とかする?

編集長 (笑)今日はそういう会じゃないので。

たられば わかりました(笑)。

編集長 『エキスパートナースweb』を始めてみて、あらためて雑誌の自由度とウェブの自由度は全然違うと実感しました。雑誌って、本当にいろんなものを使って表現できるんですよね。イラストや写真を使ったり、自分が言いたいことを著者の先生が原稿に書いてくれたり。全部が武器になってできた、1冊のまとまった表現のものが雑誌だと思います。編集者としては、全部は読まなくても、できれば隅から隅まで眺めてほしいなと思うところです。

紀伊國屋書店新宿本店と2人

たられば 出版社に就職して初ボーナスをもらった、23歳の夏。初めて作ったクレジットカードを握りしめて、ここ、紀伊國屋書店新宿本店に来たんです。初めて値段を見ずに本を選んでカゴに突っ込み、レジに行きました。5~6万円くらいだったかな。店員さんに「配送されますか?」と言われたんですけど、「持って帰ります」と答えたら紙袋を2重にしてくれて、両手に下げて中央線に乗り、下宿に戻りました。たぶん、一生忘れないですね。そのとき買った本も覚えています。小熊英二の『単一民族神話の起源』や、テリーイーグルトンの『イデオロギーとは何か』とか。この場所でトークしている自分が不思議ですが、たどり着いた感のようなものがありますね。

編集長 こちらでイベントをするのは初めてですか?

たられば こうして自分が話すのは、そうですね。初めて担当した本が発売したときも、こちらに買いに来ました。出版社には、何日、何冊売れたというのを見られる仕組みがあるんですが、特に新宿本店さんは旗艦店。ここで売れるのは大事なんです。あまりお金がなく、4冊程度でしたが…。

編集長 私も担当した看護書を入口1階に置いていただいたときは、天下を取ったかな、くらいのうれしい気持ちでした。お店の売り上げに貢献したいな~と思いながら、売れてくれ、売れてくれって見ていましたね。

たられば 誰かが本の前で止まったりすると、祈るような気持ちになるんですよね。よくわかります。

“うっかり”の出会いがもたらすもの

編集長 皆さん、本は書店さんかネットか、どちらで買われるほうが多いんでしょうか。(観客に挙手でアンケート)あ、書店で買う方のほうが多いですね。

たられば おお!レアですね。そうですか、いいですね。

編集長 ぜひ書店さんに行ってほしいですよね。これはどの社会、どの業界でも同じですが、環境がいろいろと変わってきていて、仕事に対する学習意欲が変わってきています。学習雑誌のあり方を今一度、売り方も含めて見直さなければいけないときで、転換点かなと考えています。

たられば もちろん勉強のために読むのは大事なんですけど、楽しんでほしいですよね。学習雑誌であっても、楽しんでほしいなと思って編集者は作っているので。あと、書店で目当ての本だけでなく、うっかり一緒に買った本って思い出になる。話がちょっと横にずれるんだけど、前に新千歳空港で突如思い立ち、帰りの便を遅らせて空港にある映画館で『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』を観たんです。うっかりですよ、完全に。号泣してしまいました。

編集長 初見だったんですか?

たられば 初見でした。そんなふうに“うっかり”やってみると意外といいことがたくさんあるので、皆さん、“うっかり”別の本も買ってみるといいんじゃないでしょうか。

編集長 まさしく雑誌の中の記事もそうです。「雑誌には私には関係ない記事も入っている」という声も聞くんですが、編集部は全部必要なものだと思って記事を作っていて。人生において、関係がないと言えることなんてないと私は思っているんです。今は関係ないかもしれないけど、もしかしたら3か月後、記事に載っていたような場面に遭遇するかもしれない。関心がなくても、たまたま読んでみたら興味が湧くこともあります。雑誌はそういう出会いがある媒体だなと感じますね。

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