2024年11月下旬、冷たい雨が降り、真冬並みの寒さとなった日。紀伊國屋書店新宿本店で『エキスパートナース』主催のトークイベントを開催しました。

 人々の学習環境や情報収集の方法が変化している今、雑誌の役割も問われているところ。読者の皆さんに、「もっと専門雑誌のことを知ってほしい」。そんな思いから、このイベントが生まれました。

 スペシャルゲストとしてお迎えしたのは、編集者のたらればさん。古典文学などについてつぶやく犬のアイコンを、Xで見かけたことがある方もいるのではないでしょうか。

 たらればさんと『エキスパートナース』編集長が、いまの時代だからこそ専門雑誌を読んでほしい理由を語り合いました。

たらればたられば

古典文学をはじめ、さまざまな情報をSNSで発信する編集者。フォロワー数は23万人以上。かつて『エキスパートナース』のなかでその名前が掲載されたことも。@tarareba722

『エキスパートナース』編集長えきすぱーとなーすへんしゅうちょう

『エキスパートナース』本誌とwebの編集長。エキナスの公式Xでいつも漫画の話をしている。@ExpertNurse_EN

編集長 本日はお足元も悪いなかご来場いただきありがとうございます。本日はスペシャルゲストにたらればさんをお迎えして、雑誌にまつわるお話をしていきたいと思います。

たられば こんにちは。エキナス編集長との出会いは、仕事をきっかけに友達になったヤンデル先生(市原真先生)の講演会でしたね。いろいろ話をするうちに意気投合したということでございます。

編集長 なんと『エキスパートナース』の中にたらればさんのお名前が出てきたことがあるんです。2020年9月号、新型コロナウイルスによって変わったこと、これから変えたほうがいいことを市原先生に書いていただいた記事です。ちなみに、この特集はいま読んでも示唆に富むところが多いです。

今が雑誌の大きな転換期

編集長 早速、たらればさんにお伺いしたいのですが、今の雑誌を取り巻く現状の所感はいかがでしょうか?

たられば はい。これ、答える気満々で来たんですけど、よく考えたら書店関係者がたくさんいるなかで話すのは恐ろしいなと…。取次さんとかはいないよね?

編集長 (笑)

たられば そうですね。80年くらいの雑誌の歴史の中で、大きな転換期です。出版社と取次、流通会社、書店があるという当たり前の状況は、雑誌があったから成り立っていたんですよ。雑誌をトラックに載せて日本中に届け回ることで、日本全国同じ値段で買える。非常に素晴らしい仕組みで、知のネットワークといわれたもんでございます。 それが、インターネットが発達し、この形が崩れつつあるというのが現状。平たく言うと、毎号出すのが厳しくなっています。というのが雑誌一般の話なんですが、専門誌はちょっと違うだろうなとは思っています。

編集長 専門誌はどうなのでしょうか。

たられば 1つは読者に非常に近く、深く刺さる傾向があるということ。もう1つは、クライアント、つまり広告主と密接に付き合えること。専門誌は読者と広告主と、特別な関係を築くことができるメディアなんです。5年後、10年後どうなるのかはわからないんですが、雑誌の中でも独特なポジションにあるのが現状ですね。

雑誌の“価値”を伝えていくこと

たられば 雑誌を最近買わなくなった方が多いと思いますが、今読むとすごく新鮮で面白いですよ。例えば、写真や図版が大きい。やっぱりスマホだと小さいんですよね。あと、「最初にお金を払う」ことって大事です。「学びの魔法がかかる」と僕は言うんですけれど、ここに価値があるものが載っているという契約を結んで読むのと、インターネットに流れている情報を読むのとは、読書体験の質が全く違ってきます。うちの会社の各メディアも雑誌、ウェブをやっていますが、読者に受け取られる情報の質が全然違うなとわかってきました。

編集長 そうですね。専門誌と言っても、医学系はまた特殊なんですよ。たらればさんから見て医学系専門誌のイメージってどうでしょうか?

たられば 医療業界の人しか買わないというイメージはありますね。『エキスパートナース』は看護師さん以外の読者はいるんですか?

編集長 他の医療者の方も買ってくださってはいます。とはいえ、看護師さん向けとして40年間やってきているので、その強みはありますね。先ほどウェブの話が出ましたが、この春に『エキスパートナースweb』を立ち上げてみて、雑誌とウェブの読者の違いみたいなところは、私もだんだん肌感覚でわかってきました。

たられば すごくリアルな話をすると、インターネット・SNSが普及したことで、あらゆるメディア、そして我々自身も、社会的な価値を証明しなきゃいけない時代になったと思います。ただ楽しませるとか、面白いとかだと、存在意義を示すのってわりとしんどいんですよね。そんななかで、専門誌がメディアとしてのアイデンティティを確立しているのは強みだと思います。

編集長 実は…ちょうど、2025年1月号から200円ほど値上げをするんですよ。1,430円になります。

たられば いや、したほうがいいよ。これだけ紙の値段も上がってるんだから。

編集長 私たちは1,430円でもまだまだ価値があるというか、かなりコスパがいいものだとは思ってはいるんですけれども…、それをちゃんと言葉にして伝えていかないと受け手側には全然届かないなと。『エキスパートナース』を読むとこうなる、こういうことが得られると、きちんと言葉にして読者さんに届けることを強化しようと、編集部でいろいろと考えています。

たられば 値段を上げるなら、クライアント(広告主)にも広告費が上がると言ったほうがいいですよ。

編集長 リアル(笑)

たられば 話しすぎちゃってますけど(笑)。そうじゃないと同じ金額で広告を入れてこられちゃいますからね。そこは頑張ってもらって。

編集長 先ほど、雑誌を読むメリットとして「先にお金を払う」と仰っていましたよね。『エキスパートナース』はどちらかといえば学習意欲の高い方を対象にしている雑誌ですけれども、それでもここ数年、SNSなどの無料情報が当たり前という感じになってきたなと感じます。無料の情報収集と雑誌の情報収集の違いをもっと打ち出せたらと思うんですが…。

たられば 実はそんなに違いはないんですよ。 それはもうしょうがなくて、同じ“文字”だから。ただ、「お金を払うことで、受け手にとって文字の価値が変わるんですよ」ということをどう伝えるかを、我々側が考えなきゃいけないと思います。そしてインターネットには無料で時間を潰せるコンテンツがあふれるなかで、どうやって質の高い情報を提供し続けるか。

編集長 そうですよね。

たられば 「これは価値があるものなんです」って言い続ける、虚勢を張り続けるというかな。例えば、紙屋さんと交渉して原価を下げて低価を維持するのって、実は誰も幸せにならないんですよね。ちゃんと定価で利益を配分していくほうが、はるかに価値が高いという話です。

編集長 なるほど。若い人に聞くと、1,430円でももう高いとおっしゃる方がかなり多くてですね…。仕方のない面もあるのですが、確かにわたしたちが言葉にしていかなきゃいけないなと思います。

すぐ近くにある、タイムライン

編集長 こちらから価値を伝えることに関連して。今は出版物の宣伝としてSNSは欠かせないと思うんですが、雑誌ができるSNSの効果的な宣伝ってなにかあるでしょうか。SNSのプロとして、教えてください!

たられば そうですね…毎日つぶやくこと(笑)。基本的な話ですが。あと、しんどいときも悲しいときも、あまり気にせず淡々と陽のことをつぶやくことかな。

編集長 なるほど。

たられば 読者にとって、タイムラインってすごく距離が近いんですよね。自分の部屋、ふとんの中のような感覚があると思うんです。そこで「今日ちょっと嫌なことあってさ」とか「腹立つやつがいて」みたいなことが流れてくると、1日が台なしになることもある。いや、わかります。もちろんつらいこともある。でもそれは、少なくとも公式アカウントやメディアの人間がつぶやくべきことではないかな。

編集長 そうですよね。タイムラインの近さって、ここ最近特に感じられることですか?

たられば そう思います。SNSのアルゴリズムも変わってきていますし。例えば、364日健康でいても、1日車に引かれたら不幸になっていまいます。ダメージとケアって1対1の関係ではないので、ケアは364日ではだめで、ずっとしてないといけないんですよね。なのでSNSでも警戒感を強めるとともに、自分の心も守り、手当てしないと、と思います。

編集長 わかりました。ちゃんと注意します。

たられば 趣味の話はもっとつぶやいてもいいんじゃないですか。

編集長 いや、でも『エキスパートナース』の公式アカウントですよ?

たられば 劇場版「鬼滅の刃」無限列車編、何回観に行きました?

編集長 55回。(会場からどよめき)ちょっと、おかしいですよね(笑)。

たられば 55回…。いや、そういうことは言ってもいいと思いますよ。

編集長 いつかウェブ記事にします(笑)。

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