症状から病態を察する技術「症候学」。今回は「呼吸困難」の症状から考えられる原因や病態について、國松淳和先生がわかりやすく解説します。

※この記事は『エキスパートナース』2026年8月臨時増刊号「ナースのための症候学」の内容を抜粋したものです。

・主訴とは
・「呼吸困難」という用語
●壱:呼吸困難があり少し余裕があるときに、まず考える3つの原因
●弐:仕分けする
・熱があれば肺炎
・聴診でウィーズを確認する
・肺塞栓かどうかは情報収集がカギ
●参:循環(心臓)を考える
・胸痛の有無を聞く
・重要なのは胸部症状の質
・心不全のキーポイント:既往歴、血管イベントのリスク因子の数、 今の輸液量
・他のこと
・まとめ
●COLUM:新人時代にしんどかったこと

主訴とは

 「主訴」という用語があります。これの厳密な意味をご存知ですか? 私が研修医だったころ、ある患者さんの病歴サマリーを書いていて、その内容についてとある先生に指摘をされたことがあります。そのベテラン先生は、「“呼吸苦”というのは主訴ではない」と言うのです。(若かりし)私は正直、「ハァ〜?」と心の中で疑問に思いました。一緒じゃんと思ったのです。その先生が言うには、主訴・・として書くなら「呼吸困難」と書きなさいと言うのです。そのときはなんだか細かいこと言うなあとイラッとしてしまい少し解離したので、すぐにその意味を理解することに直面しなかったのですが、今ならわかります。

 「主訴」という概念は、医療従事者目線で患者さんを見たときの患者さんの様子というか、つまり医療従事者どうしのためのものなんですよね。患者さんの言い分そのものではなく、いろいろ情報収集したのちにこの患者さんのことがわかってきて、それを経て把握できた「言い分ベースの問題点のようなもの」を医療従事者の記録として記述したものなんです。だから患者さん自身が、「私の主訴は〜」とか言ったら変なんですよね。要するに、患者さんの主観情報を端的にまとめた、記録用の短い言葉を主訴と呼べばいいと思います。

呼吸困難を訴える患者のイラスト

 ちなみにSOAP方式のカルテ記載での、「S:subjective(主観的情報)」もほぼ同様の意味であると思ってよいでしょう。ここまで書いておいてすごいこと言いますが、別にカルテの「S」に患者さんの発言を「 」で引用してそのまま書いてよいと私は思っています。それは、日々の診療カルテというのが公文書であるということのほかに、実用的なものでもあるからです。患者さんの発言が書いてあるととても役立つと私は思います。一方、学会や研究会、病歴サマリー作成など、少し硬めに文章化するときには私が先ほど説明した、厳密な意味での「主訴」としてまとめたほうがよいでしょう。

「呼吸困難」という用語

 呼吸困難という症候があります。これはけっこう使える医学用語です。この「困難」という言葉は、「不可」「不能」という意味ではないところが少しポイントです。「困難」のニュアンスは、「いまいちである」「うまくその機能を果たしていない」くらいの意味です。強さはちょっとマイルドで、もつ意味がやや広いのです。なので「呼吸困難」と聞いたら、「呼吸がいまひとつ」「呼吸に難儀を感じる」という雰囲気で使うのだと心得ましょう。

「呼吸困難」の戦術

 さて、患者さんが「呼吸困難」を感じていることをどう察知するかですが、これにはいろいろなパターンがあります。呼吸回数(頻呼吸)、酸素飽和度の低下、あとは患者さんの「苦しい」という訴え。

 随所で私が言っていますが、看護師はこの最初の「何か変だ」と察知することの能力は長けていると思ってください。苦手な人は、これこそナースどうしでその感覚について共有してください。問題は、呼吸困難があると察知してからの話です。次のステップで考えましょう。

壱:呼吸困難があり少し余裕があるときに、まず考える3つの原因
①肺や気道のトラブル
心不全
③肺塞栓

弐:仕分けする
④熱があれば肺炎を疑う
⑤聴診で気管支喘息発作かどうか見きわめる(ウィーズの有無)
⑥情報収集から肺塞栓の可能性を考える

参:循環(心臓)を考える
⑦胸痛の有無を聞く(質の把握が大切なのでしつこく聞こう)
➡あれば大動脈解離、急性冠症候群(ACS)を疑う
➡ACSの胸部症状は数分で済んでしまう胸部圧迫感・絞扼感、放散痛が特徴
⑧心不全かどうかは、既往歴・血管イベントのリスク因子の数・今の輸液量の3つから考える

壱:呼吸困難があり少し余裕があるときに、まず考える3つの原因

 目の前の患者さんの問題点が「呼吸困難」だと言えている時点では、ある意味猶予があると考えられます。というのは、脳で苦しさを感じ、呼吸筋を即座に作用させて呼吸をドライブさせている反応がそこに見られているだろうからです。本当にやばいのは、水に溺れる人が声も出さずに静かに沈んでいくのと同じように、思いがけず呼吸が停止していくような場合であり、こういうときはある意味静かです。

 呼吸が荒い、苦しいと訴える、あるいはSpO2モニターのアラーム音が鳴るなど、呼吸困難という状況というのはやや騒がしいのです。痰がゴロゴロしていたら騒がしいですよね。慣れた看護師ならすぐに口腔内を確認し、吸引を試みると思います。痰がたくさん引ければ、呼吸困難の原因はそれであり、アセスメント・プランができたことになります。

 さて、この少しだけ余裕があるときに何を考えるかですが、とにかくまず、次の3つを考えます。

呼吸困難だと言えて少し余裕があるときに、まず考える3つの原因
□肺や気道のトラブル
□心不全
□肺塞栓

 考えるというより、ふわっと脳内でなぞる感じです。

 あたりまえですが、酸素はヘモグロビンが運びます。酸素と結合したヘモグロビンが豊富な血液のことを動脈血と呼び、それが心臓から勢いよく放出されて体にばら撒かれるんでしたね。その酸素はそもそもどこから入るかといえば、あたりまえですが気道から空気を吸って肺胞で酸素を取り込むのでした。ということで、肺はすごく大事です。が、肺に血液(ヘモグロビン)を通過させないことには、酸素を受け取ることすらできないわけですから、酸素どうこうの前に肺に向かって血流が行き届くこともかなり重要です。つまり、肺動脈がもし閉塞したらそれはそれで大変なわけです。

 第1段階では、この3つをぶつぶつと心の中でつぶやきながら思い起こすことが重要です。

弐:仕分けする

熱があれば肺炎

 いよいよ“仕分け”です。まず、熱があれば肺炎です。熱というのは炎症の結果引き起こされますが、さっきの3つの状況のなかで、炎症が浸潤する場があるのは肺胞(や気管支)くらいです。

 例えば、心筋炎などはごくまれです。心筋炎はたしかに怖いですが、もし発症したら心臓が止まる(急性ポンプ不全となる)ことが多いので、あまり考える時間がないので逆に大丈夫です(患者さんや病棟は全然大丈夫じゃないですけれど)。

患者さんに補聴器をあてる看護師のイラスト

聴診でウィーズを確認する

 そして、聴診器を当てます。とにかく最初はウィーズ(呼気時の高調な呼吸音)があるかどうかです。正直、これだけでいいと思っています。聴診で、気管支喘息かどうかを見きわめられたら最高です。

 気管支喘息発作の所見で特徴的なのは、以下の3点です。

□呼気が延長していること
□わりと全肺野でウィーズが聴こえるということ
□その音のピッチ(高さ)が一度の呼吸でさまざまであり、不協和音のように聴こえること

 まず今さらですが、喘息発作の患者さんは、あれは(当人の主観や自覚とは別に)息が吐けなくて・・・・・
苦しんでいます
。狭窄のため、呼気時に強い抵抗があるために呼気に時間を要し、そして高いウィーズが聴こえるのです。また喘息は、ある意味で全身のアレルギー反応であるため、上肺野だけとか左肺底部だけなんてことはありません。おおむね胸部のどこで聴いてもウィーズが聴こえることが特徴です。

 最後に、気管支の径(太さ・細さ)というのは1つの肺の中でさまざまですが、それがいっせいに狭窄して、そこを通過するときに高い音が出るわけですので、1つの高さの音だけが聴こえるということがあり得ません。多数の音階の音が同時に鳴るイメージです。ヒューという表現も個人的にはちょっと違うなって思います。「ヒャァー」とか「プヒョ〜」とか「ピュィヒ〜」みたいな感じです。

 このように、喘息はまずそう疑うことが大事ですので、これが聴こえただけでドクターコールの対象です。もちろんすぐにチームで情報共有して、必要や経験年数に応じて応援を要請します。

ウィーズを報告する看護師のイラスト

肺塞栓かどうかは情報収集がカギ

 次に肺塞栓の疑い方、可能性の見積もり方ですが、これはフィジカルとか所見とかっていうよりも、情報収集です。

□入院患者
□がんをもっている
□ADL(日常生活動作)が低い
□精神疾患をもっている
□感染症を治療している

 この程度にシンプルでいいです。初動というのは、細かすぎてはダメです。むしろ粗いくらいがいい。

 がんをもっていると、特に膵がんとかがそうですが、すごく血栓傾向が強くなります。感染症も、なかでも嫌気性菌の感染症で血栓傾向が強くなります。精神疾患の患者さんも血栓ができやすいんですが、これはもちろん偏見ではなく、病的に活動となることがあるからです。統合失調症やうつ病に多いですが、病気ではないわれわれからすると、あの患者さんたちは想像をはるかに超えて何も動かない状態になることがあります。

 人間は本当に静止していると、特に静脈系のような圧も流速も低い循環系はすぐに血流が落ちてしまい、容易に血栓を形成してしまいます(下肢静脈血栓が有名です)。健常な人が脈管の中でそうそう血栓ができないのは、絶えず良好に流れているからなんですよね。

参:循環(心臓)を考える

胸痛の有無を聞く

 そして3段階目です。「あれっ、さっきの心不全は?」と思ったかもしれませんね。そうです、最後は「循環(心臓)」です。じつは心不全かどうかは一筋縄ではいかないのです。なぜなら心不全というのは病気(疾患名)ではなく、病態名/症候群だからです。いろいろな情報、所見、検査値の集合から妥当性を考えて総合判断をして、そこでようやくある・なしを考えるからです。

 ここではそうは言わずに現実的にいきましょう。まず、胸痛の有無は聞きましょう。あれば、死ぬ病気から考えるので大動脈解離急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS)を頭によぎらせましょう。急変、あるいはショックバイタル、意識障害などになっていたら論外です。呼吸困難のアセスメントなどしている場合ではなく、それぞれに対処しましょう。

大動脈解離とACSの胸痛の特徴

 大動脈解離は普通、かなりの痛みになります。
 ACSは重要です。なんせ院内で起きようものなら、発見できなかったことはその現場にとって大きな問題になってしまいます。

 ACSの胸部症状は、「心臓が痛いです!」「つらいです!」のようにはっきりと胸痛を訴えないことが特徴です。むしろ、数分で済んでしまうような胸部圧迫感、絞扼感であることが普通で、それが最近増えていたなどの情報は疑わしいです。放散痛といって、前胸部症状ではなく、顎や喉の奥、左肩や左上肢に痛みが文字通りふわっと放散される感じを伴う場合もかなり疑わしいです。冷や汗を伴うこともありますね。患者さんからよーく症状を聞きましょう。

左肩に痛みを感じている患者

 しつこく聞くことが重要です。患者さんというのは、医療従事者がしつこく聞いてはじめて核心的なことを語ってくれたりします。「そういえば最近たまーにやたら歯が痛いんだよね〜歯医者ではなんともないって言われる」「なんだか肩こりが出たり引っ込んだりするんだよね〜整形外科ではなんともないって」のような触れ込みは狭心痛の可能性が普通に高めにあり、場合によっては危険なサインです。

重要なのは胸部症状の質

 呼吸困難から少し脱線しました。もちろん胸痛なのですぐに心電図、採血に進んでもかまいません。ですが、不安定狭心症/ACSかどうかは胸部症状の質の把握が一番重要です。とにかく症状なんです。

 呼吸困難を呈している原因がもしACSなら、それはもう心筋梗塞となっていて、心筋の機能低下がはじまっている可能性があります。心不全だと思えたとしても、心筋梗塞があるかどうかは大違いです。

 初動の把握が重要なので、症状を中心としたACSかどうかの見きわめ方、そしてACSに至ったストーリー(場面や事例)はぜひナースのみなさんは何パターンもストックしておいてください。それを積み重ね、余裕がある人が心電図の判読をがんばればいいです。重要なのは、胸部症状の質の病歴聴取です。心電図が正常の不安定狭心症を何度か見たことがありますよね?

心不全のキーポイント:既往歴、血管イベントのリスク因子の数、 今の輸液量

 次は心不全です。心不全かどうかで重要なのは、既往歴血管イベントのリスク因子の数今の輸液量の3つです。

 既往歴というのは、まさに心不全の既往です。心不全になったことがある人は、再び心不全になりやすいです。また、心房細動や弁膜症の既往があるかどうかも把握したいですね。血管イベントのリスク因子というのは、ほぼ冠動脈疾患のそれに近似できます。すなわち、高血圧・脂質異常症・糖尿病の有無喫煙慢性腎臓病などの病歴がないかを把握します。もちろん、あればあるほどハイリスクです。

 輸液量については字のままですが、具体的にはNaClを多く含有する生理食塩液や細胞外液の点滴中、あるいはアルブミン製剤やRBC(赤血球濃厚液)・FFP(新鮮凍結血漿)などの輸血製剤の投与などが多ければ、ボリューム過多となって心臓の機能の許容量を超え、ゆくゆくはポンプ不全になるでしょう。そういう状況では心不全+肺水腫の状態を疑います。

 ここまで把握してから、下腿浮腫がないか……などのフィジカルに注目することになるんですが、正直そんなものはほぼ無意識に観察していたりするし、「心不全のフィジカルアセスメント!」などと盛り上げなくても、ここまでの情報を冷静に収集しそれらを総合していれば、次の初動は決めやすいです。初期の見取りをあえて粗くし、他方、まあまあ特異的に(個別性高く)疾患を考えシンプルに対応する、というのが呼吸困難に対する初期戦術です。

他のこと

 他にないわけではもちろんありません。脳の呼吸中枢がやられている、代謝がやられている(糖尿病ケトアシドーシスなど)、薬剤(ベンゾジアゼピン系薬剤など)や神経疾患などのために呼吸筋が落ちてしまっている、パニック発作になっている、睡眠時無呼吸症候群になっているなど、呼吸困難の要因は多いといえば多いです。ただ、核となるお作法を身につけ、それを無数に繰り返して確認し続ければ、呼吸困難という症候への初動に強くなります。

まとめ

 つまり、「呼吸困難」の症候から察する場面に際して、看護師にとって重要なのは初期の初期であり、ヤバそうだと察知し、医師含めまわりと情報共有をはじめるまでの短い間、ということになります。それだけに、慣れれば職人的な匠のワザが際立ちます。この一瞬のために自分があると思ってください。

 今回説明したことを、脳内でスポーツの基本練習のように繰り返し考えていましょう。それで、今回の内容では足りないなと思って別の教科書を取り出すようになったら、それは成長している証です。がんばってください!

「呼吸困難」の戦術まとめ

● 「呼吸困難」という切り口で症候を考えると、原因は呼吸器疾患以外のものもけっこうある。
● 頻度も高く、症候学を学ぶための“準備体操”として適している。

COLUM

新人時代にしんどかったこと

この春から看護師になったみなさん、国家試験合格おめでとうございます。新しい職場で新しい生活がはじまっているでしょうか。不慣れな自分に不甲斐なさを感じ、また馴染みのない人たちに囲まれてしんどいといえばしんどいと思います。

 ではここで國松先生の新人研修医時代、しんどかったことランキング〜。まず第3位は、「不慣れな病棟での指示出し」です。ホーム的な病棟でも怖いのに、日ごろ全然行かない病棟で上級医もいないなか、知らないリーダー看護師さんに声をかけて指示出すのめちゃ怖かったです。

 第2位は救命救急センターのローテーションです。激務というか、テンションについてくのがしんどかったです。コールがあっても何もできないし、様子見しちゃいけない科だったので疲れました。

 そして第1位は……すいません、これけっこう普通なんですが、受け持ち患者さんの死亡です。大学病院だったので穏やかな死というのは基本なく、思いがけない病気の悪化による急死です。遺されたご家族は皆、受け入れ難い現実に感情を露わにしていました。いろいろありますがせっかく看護師になったんですから、とりあえず仕事を覚えて技術を身につけないとね。

(初出:2023年5月号)

\続きは誌面で/

2026年8月臨時増刊号表紙

エキスパートナース2026年8月増刊号
ナースのための症候学

國松淳和 著
B5・176ページ
定価:1,980円(税込)
照林社

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