患者さんの症状から病態を察する技術「症候学」。症候学が看護師にとって必要な理由を、國松淳和先生が紹介します。
※この記事は『エキスパートナース』2026年8月臨時増刊号「ナースのための症候学」の内容を抜粋したものです。
突然ですが「症候学」です
みなさん、はじめまして。私は東京の病院で内科医をしております、國松と申します。医師24年目らしい(今数えた)ですが、『エキスパートナース』に連載をはじめて6年目になります。
さて、24年臨床医をやっているということは、24年看護師さんと一緒に仕事をしているということになります。24年看護師さんの働きを見続けたことになるので、看護師の仕事についてはそれなりによく眺めてきたことになります。みなさんが「医者? あー、いろいろいるよね〜」「医師の仕事はどんなものかはだいたいわかる」って思うのと同じかそれ以上に、私もまたナースとナースのお仕事を見てきました。
そんな私が、これから看護師さんたちに「症候学」なるものを、かなりの時間を割いて解説しようとしています。
さて、「症候学」って何でしょうか。これは簡単にいうと、患者さんの症状や症候からいかに質高く情報を得て推論し、それをその後の診断や治療に結びつけることができるかという考え方、あるいはその方法論を扱う学問のことをいいます。
応用を効かせることに大変役立つので、「原理を学ぶ」のごとく学問として考えてもいいし、普通に実臨床で直結的に役立ったりするので、業務上のコツのような実践知のようにとらえてもいいでしょう。
ナースと症候学
「症候学」といきなりいわれましても、と思いつつ、おそらく何となくよさげなものだと思ってくれると思います。そうなんです。じつは症候学は、看護師が身につけたらものすごく役に立つものだと私は思っています。これについてまず説明します。
看護師は、患者さんやその家族を除けば、患者さんの症状をあらゆる職種のなかで一番はじめに把握する人になると思います。これにはおそらく、まったく異論はないはずです。
入院では、ラウンド時やナースコールで患者さんの様子をまず感じ取り、また話を聞いたりして状態の変化を見とっていきますよね。その後、各種の情報収集に入り、医師の判断をもらうべきかの判断をするのですが、とにかくまずは看護師です。
外来では、受付事務員・クラークさんが最初に手続きするとしても、症状をまずうかがうのは看護師だと思います(聞き取るのが看護助手さんだったとしても、最初に症状について考えるのは看護師ですよね)。
電話相談だとしてもそうだと思います。とにかく困りごとの内容から症状を聞き取り、受診やその後の診療にどうつなげるべきかを考えて、適切に医師の診察に誘導していると思います。いうまでもなくここは事務員では無理で、来院後しんどそうだったらベッドに寝かせて待つ、先に点滴など処置を行うべきか考える、皮膚を触りつつ、そして話をさらに聞きながらバイタルを測定する。こういったことは外来看護師の仕事……というか職能を活かした行為です。
症候学が生かされるのはまさにこのようなときです。このようなとき? 何にも目新しくもない、看護師さんにとってはごくありふれた日常だと思われるでしょうか。私の眼目は、「このような」という事柄が何を指しているかというところにあります。
もったいぶらずに言いますと、これらすべて「患者さんが症状を発した後、かつ、まだどんな診断か決まっていない段階である」という点なんです。つまり、まだ情報がうんと少ない段階。時間的なフェーズの話です。
ナースに限らずどんな職種でも(医師でも)、まだよくわかってない段階で、堅牢な指針をもって具体的な行動に移すことは難しいです。難しいというか、未知で不確かという状況に耐えられず、多くの人が(くどいですが医師でも)不安になり、ときにいら立ったり、ソワソワして落ち着いていられなくなったりします。
このように、医師にとってすら、こうした不確かな状況で考えること(つまり症候学)が万年課題となっているのですが、患者さんにどの職種よりも最初に接触する看護師こそ、この症候学に長けているほうが、患者さんのその後のケアに大きく貢献できると私は思うわけです。
症候学のよさはほかにもあって、「脳の中だけでできる」という点です。手技や資格も要らないですし、記録さえ要らないです。なぜなら症候学というのは、“方向づけ”のためにやるものであって、行為(判断)と行為(判断)を結びつけるためのものです。その結びつきが、滑らかであり、そして早ければ早いほどよいわけです。この、まだ誰もわからない段階でも適切に方向づけることができる、というのが症候学の真髄なのですが、私の考えではナースも適任だと思っています。
勉強熱心なナースや、今よりできるようになりたいと思っている看護師さん。そして何より、手技の下手さや要領の悪さとかのために、同期や同僚や先輩に引け目を感じているみなさん。ついにあなたの時代がやってきました。症候学です。

領域別? 病名? 科?
症候学は、病態学とはどう違いますか。違いますね。「病態学」という言葉は、じつは医師の間では一般的ではありません。「病態生理学」の省略版なのかもしれませんね。ちなみによく「解剖生理」って言葉がありますが、あれもじつは本道の呼び方ではありません。「解剖学と生理学」を実用的な理由から合体したんだと思います。
看護のなかの病態学は、何というか疾患や病名のお勉強というイメージがありますがいかがでしょうか。いいでしょう、それもめちゃ大事です。なお、病態というのは本来、病名という定義されたものを指すよりも、病気の質や様態を指しています。今後、私も「病態」という言葉をたくさん使うと思います。病態というのは、生理学に根差していて、その生理学は解剖学と密接(というか表裏一体)である、というイメージです。
病態という言葉はじつに便利で、病名/診断というのは恣意的な定義に過ぎませんから、病名がなくても把握できるのが病態です。なので、症候学は病態と親和性が高いのです。これは知っておいてよいでしょう。診断をするのは医師だけですが、診断の前に状態把握に肉薄できるという意味で、症候学はナースの売りにしてもいいとすら思います。
さて、特に急性期の入院病棟などで、「循環器の患者さん」「整形外科の患者さん」「消化器の患者さん」「脳神経の患者さん」のように、ある程度は病名がついていることがありますね。領域というか、科目というか。受け持つ科が決まっている時点で、だいたいの病名は決まっていたりします。
ところで、外来と入院で違うことは何ですか? これにはいろいろあると思いますがその1つが、「外来(初診)患者さんは、病名が決まってない」という点です。入院患者さんには普通病名があるので、病名から患者さんのことを考えます。しかし外来では、特に何らかの症状をもって受診したという場合、その時点ではまだ診断名や病名がありません。
こういうことに意識的だったことがありますか? 症状があるんだから病名なんていずれはあってあたりまえ、と思っていませんか? そのようには思わないとしても、正直、「病名(原因)や病態さえ事前にわかっていれば、楽だよな」と思ったことはあると思います。この「 」のことがけっこうリアルだったりしますよね。
もうほんと、くどいですが症候学というのはこのように、まだ未決のことに対して未決のうちに考えることそのもの、あるいは決めていくための考え方をいいます。患者さんの症状とか問題点から、患者さんに起こっていることを類推していく臨床概念を「症候学」というのです。
これは、臨床の各科目によらないというところがポイントです。「臓器横断的」あるいは「領域横断的」といったりします。外科でも内科でも症候学は応用されます。
また症候学は、外来・入院を問わないということも大きなポイントです。さらには医療機関よりも前、つまり家庭や問題の発生現場にまだいる段階であっても、症候学を応用すれば患者さんのトラブルの原因を類推できてしまうのです。
いち国民の立場になったときに、みてくれる医療従事者から「(病名がわからないので)症状だけでは対応が難しいです」と言い放たれたら嫌ですよね。でも、ほとんどはそれがまあまあ現実です。正直、これは個人的には世の中的に切実な現状だと思っていて、この観点からは、症候学は職種によらずブルーオーシャンということになります(ブルーオーシャンって言いたいだけの可能性があるので忘れてください)。専門ナースもいいですが、領域(科)を横断するナースも、かっこよくないですか?
みなさん、今までと違うナースになりたいですよね? なりたいのであればガンガン症候学を勉強して、日々症候学しましょう!
\続きは誌面で/

エキスパートナース2026年8月増刊号
ナースのための症候学
國松淳和 著
B5・176ページ
定価:1,980円(税込)
照林社
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