手術後の急変として気をつけたい、深部静脈血栓症(DVT)とDVTの最も危険な合併症である肺血栓塞栓症(PTE)。DVTとPTEを見抜くため、予防するために注意したい急変徴候を紹介します。

起こりがちな急変徴候

●下肢の腫脹
●緊満痛
●腓腹部圧痛
●皮膚色の変化
●ホーマンズ徴候
⇒肺血栓塞栓症につながりやすい深部静脈血栓症を疑おう!

 深部静脈血栓症(deep vein thrombosis、DVT)とは、下肢の深部静脈に血栓が生じ静脈還流に障害を与える病態のことです1
 術後のDVTの最も危険な合併症として、肺血栓塞栓症(pulmonary thrombo-embolism 、PTE)があります。

深部静脈血栓症(DVT)の原因とは?

 安静臥床が長期にわたるなどさまざまな要因により、下肢の血流がうっ滞して深部静脈に血栓が生じて起こります。DVTが生じる要因として、Virchow(ウィルヒョウ)の3徴候(血流のうっ滞、血管の障害、血液凝固能の亢進)があります(表1)。

表1 Virchowの3徴候

①血流の停滞
・長期の臥床
・長時間の手術←下肢(特に下腿)の筋肉が収縮せず血液が心臓へ送り戻されなくなる
・肥満
・脱水や腫脹などによる静脈拡張

②血管の障害
・カテーテル検査や手術操作などによる静脈壁の損傷
・静脈炎や炎症性サイトカインによる静脈内皮損傷
・抗リン脂質抗体症候群 など

③血液凝固能の亢進
・線溶能の低下
・妊娠
・経口避妊薬の服用
・脱水
・悪性腫瘍
・外傷
・手術 など

深部静脈血栓症(DVT)早期発見・対処のポイントは?

①片側性の徴候を見逃さない

 急性期のDVTでは下肢の腫脹、緊満痛、腓腹部圧痛、表在静脈の怒張、皮膚色の変化(発赤、チアノーゼ)(図1-①)、ホーマンズ徴候(Homan’s sign、足関節を背屈させると腓腹部に疼痛が誘発される、図1-②)などが片側性に出現することが多いです。

図1 急性深部静脈血栓症の徴候①下肢の変化
急性深部静脈血栓症の徴候①下肢の変化のイラスト
(左)腫脹(右)発赤
図1 急性深部静脈血栓症の徴候②ホーマンズ徴候
ホーマンズ徴候のイラスト
下肢を伸ばした状態で足関節を背屈させ ると、腓腹部に疼痛が生じる

 DVTが発症していても無症候性である場合があり、早期判断が難しいといわれています。DVTの有無を見る検査としては、静脈エコー検査、静脈造影、CT検査、MRI検査、血液の凝固・線溶系検査(Dダイマー)が行われます。

②抗凝固薬は投与のタイミングに注意する

 DVTの治療には抗凝固療法を用います。抗凝固薬(表2)は基本的に血液が固まるのを妨害するため、出血傾向となります。
 術後や硬膜外チューブ挿入中などは投与開始のタイミングが重要なため、医師の指示を十分確認する必要があります。また、消化管出血の徴候(吐血、下血、腹痛など)や転倒などによる外傷にも注意が必要です。

表2 抗凝固薬

●未分画ヘパリン:即効性があり初期に使用
●ワルファリンカリウム:内服薬で長期投与が可能
●合成Xa阻害薬:皮下注射剤。2011年より認可

深部静脈血栓症(DVT)予防・予測のポイントは?

①早期離床で「筋ポンプ」と「venous foot pump」をはたらかせる

 静脈の機能は、末梢から心臓への血液の還流作用です。これには、動脈からの押し上げや呼吸などによる還流のみでなく、主として四肢の筋肉収縮と弛緩による筋ポンプ作用による還流が重要であると言われています。

 静脈血のうっ滞を防ぎ、血液還流を促進するためには、「筋ポンプ」と「venous foot pump(足底に荷重をかけることによる静脈還流)」を働かせることが重要です。このため、早期離床が重要となります1

②圧迫療法と間欠的空気圧迫法でうっ滞を防ぐ

 DVTを起こさないためには、リスクの高い患者(Virchowの3徴候が起こりやすい患者)を発見し、医師の指示のもと「圧迫療法(弾性ストッキング、弾性包帯)」や「間欠的空気圧迫法(フットポンプ)」で予防ケアを行うことが重要です(表3)。

表3 圧迫療法と間欠的空気圧迫法の特徴

圧迫療法の特徴
●下肢の表在静脈を圧迫することにより血液を深部静脈に集め血流を増加させる
●静脈内腔系を小さくすることで血流を増加し、血栓形成を予防

間欠的空気圧迫法(フットポンプ)の特徴
●フットポンプ加圧を行うことで、静脈中の血液が押し出され、静脈血流速度が増加
●リスクの高い患者に使用

 圧迫療法や間欠的空気圧迫法を使用中は、少なくとも1日1回は外して循環不全がないかを観察します。また、発赤や潰瘍が形成されてないかを確認することも必要です。しわや偏りがあると、その部分に血流がうっ滞する可能性があります。腓骨頭を圧迫し続けることで神経障害が起きる可能性もあるので、腓骨頭を圧迫していないかどうかも確認します。

 意識レベルが低下している患者麻痺のある患者、術後などで麻酔による感覚障害のある患者では、特に注意して観察する必要があります。血栓などがすでに存在する場合は、フットポンプを用いた圧迫を行うことで下肢の血栓が遊離し肺血栓塞栓症の原因になるため、禁忌患者を見極める必要があります(表4)。

表4 フットポンプの禁忌

①心臓への血流増加が有害になる患者
②深部静脈血栓症の患者
③血栓性静脈炎の患者
④肺血栓塞栓症の患者
⑤塞栓源が不明の脳梗塞の患者

(文献1、p540より引用)

 また、弾性ストッキングや弾性包帯を装着していることに苦痛を感じる場合も多いです。患者や家族にもDVTの危険性や弾性ストッキング、弾性包帯の圧迫効果と血栓防止の必要性を説明し、患者の協力のもとで予防策を講じることが必要です。

③脱水の補正、足関節運動も効果的

 DVTの予防として圧迫療法や間欠的空気圧迫法、早期離床だけでなく、脱水の補正、ベッド上での足関節自動運動を行うことも重要です。

起こりがちな急変徴候

●胸痛
●術後の呼吸数増加・頻脈
●咳、血痰
●呼吸困難
⇒失神、ショック、突然死につながりやすい肺血栓塞栓症を疑おう!

肺血栓塞栓症(PTE)の原因とは?

 排泄やベッドで起き上がったとき、初めて歩いたときなどに、それまで形成されていた血栓が遊離し、肺動脈を閉塞させることで起こります。DVTの合併症として生じる場合があります。

肺血栓塞栓症(PTE)早期発見・対処のポイントは?

 肺血栓塞栓症が発症すると、突然の呼吸困難、強い倦怠感、胸部痛、失神、ショックなどを呈します。
 肺血栓塞栓症は突然発症することが多く、過去の症例でも前兆となる症状がみられていない症例が少なくありません。しかし、胸痛、 頻脈、 咳、 血痰、 呼吸困難などがある場合は肺血栓塞栓症が生じている可能性があります。

 胸痛時には12誘導心電図をとり、心臓疾患との識別が必要です。また、術直後より呼吸回数の増加や頻脈がみられる場合は、術後の疼痛の程度なども客観的に判断しながらも、肺血栓塞栓症の可能性も含めて全身状態を観察する必要があります。

 定時的に上記の症状と合わせて、SpO2(経皮的酸素飽和度)を測定します。酸素濃度の低下があれば肺血栓塞栓症を疑い、抗凝固療法を行います。広範囲なものでは下大静脈フィルター経皮的人工心肺 装置の装着が必要になる場合もあります。
 突然の心停止により生じることもあり、この場合は蘇生が最優先となります。

肺血栓塞栓症(PTE)予防・予測のポイントは?

 肺血栓塞栓症では、胸痛や呼吸困難、血痰などの症状が出ます。なかには軽い胸痛や息苦しさを訴える程度の場合もあるため、症状には特に注意し、万が一の場合に備えておくことが必要です。

 術後の最初の歩行や移乗では肺血栓塞栓症を発症しやすいため、歩行の前には下肢の腫脹など、DVT徴候がないかを確認したうえで医師または看護師が付き添い、予測性をもって対応することが重要です。

1.木下佳子:深部静脈血栓症(DVT)の予防.坂本すが、井手尾千代美監修,木下佳子編:完全版ビジュアル臨床看護技術.照林社,東京,2015:529-543.

1.整形外科看護編集部 編:見てわかる すぐ使える 整形外科ナースの必須看護技術.合併症の基礎知識と予防法、対処法を身につけよう.整形外科看護 2008年春季増刊号.
2.坂本すが 監修,小西敏郎,山元友子 編;術前・術後標準看護マニュアル.メヂカルフレンド社,東京,2007.
3.落合慈之 監修,下出真法 編:整形外科疾患ビジュアルブック.学研メディカル秀潤社,東京,2012.

※この記事は『エキスパートナース』2014年5月号特集を再構成したものです。当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載および複製等の行為を禁じます。