持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD)ってどんなめまい?
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PPPDの診断と治療
●併存疾患でめまいが説明できない場合に、 PPPDと診断される
●浮遊感、浮動感、不安定感、非回転性の擬似運動感覚、空間識が障害されたような感覚が見られる
●治療法として、抗うつ薬・抗不安薬(SSRIなど)、前庭リハビリテーション、認知行動療法が有効
診断方法:一般平衡機能検査や心理アンケート、 問診票が有用
バラニー学会(Bárány Society)が作成したPPPDの診断基準の和訳が日本めまい平衡医学会から示されています(文献2参照)。
中心となるめまい症状は浮遊感、浮動感、不安定感、非回転性の擬似運動感覚、空間識が障害されたような感覚で、これらが3か月以上持続します。回転性めまいは含みません。
症状はほぼ毎日存在し、1日の半分以上認めます。
1日バタバタと働いた後に夕方につれて悪くなるという看護師の患者さんもいます。うつによるめまいが朝に悪化するのとは対照的です。
「①立位や歩行」「②急な動き(能動的あるいは受動的)」「③複雑な視覚パターンやブレの多い不安定な画像」などの視覚刺激を受けることで増悪し、いったん増悪するとしばらく持続します。
増悪の程度は個人によって異なります。平衡障害を引き起こす何らかの疾患(多くの場合、急性前庭疾患)が先行し、それらが軽快した後も前述の症状が持続します。
先行疾患が残存したり、器質的前庭疾患や精神疾患が併存したりする場合もありますが、それらの疾患では前述のめまい症状を説明できないときにPPPDと診断します。
1)検査所見
前庭疾患が併存する場合はその特徴がそのまま認められますが(例えば、メニエール病を合併する場合なら低音部難聴と半規管麻痺など)、PPPDに特異的な平衡機能検査、脳画像検査は現時点では報告されていません。
しかし、これは診断上各種検査が不要であることを意味するのではなく、併存する前庭疾患や精神疾患を評価するためにも一般平衡機能検査や心理アンケートはPPPDの診断に重要です。
2)PPPD診断のための問診票
PPPDの診断のためには症状や病歴に関する詳細な問診が重要です。
問診をできるだけ漏れなく効率的に行うため、我々は問診票(Niigata PPPD Questionnaire:NPQ)を作成しました(文献2参照)。問診票の信頼性および妥当性は統計学的に証明されており、72点満点中27点をカットオフ値とするとPPPD診断の感度は70%、特異度は68%です。
症状が長く続く場合は、PPPDを疑って診療することが重要です。
鑑別診断:視覚刺激で誘発され、 持続することが鑑別のポイントになる
慢性のめまいを示す疾患としては、一側前庭障害の代償不全、両側前庭機能障害、加齢性前庭障害、心因性めまい、中枢変性疾患などが挙げられます。
これらとPPPDは多くの場合、視覚刺激による増悪が見られるのと、いったん誘発された症状が長期間持続する点で鑑別できます。
また、両側前庭機能障害や加齢性前庭障害では両側前庭機能低下が診断基準に含まれており、多くの場合正常値を示すPPPDとこの点から鑑別できます。
併存疾患がある場合の診断に関しては、患者さんの症状が併存疾患のみで説明がつくのかどうか、という点を重視します。 例えばメニエール病の診断基準を満たす患者さんが発作のない時期にも持続する浮動感を訴え、その浮動感がスーパーの陳列棚で誘発される場合、その症状(=陳列棚による誘発)がメニエール病で説明できるのかどうか考え、説明できない場合、メニエール病を合併したPPPDと診断します。
治療:SSRIはうつに対する半量程度で効果がある
PPPDの治療には一般の抗めまい薬は無効で、抗うつ・抗不安薬(SSRIなど)による薬物治療、前庭リハビリテーション、認知行動療法の有用性が報告されていますが、いずれも無作為化比較試験は行われておらず、真の有効性が証明されているわけではありません。
SSRIに関しては、抑うつや不安症の有無にかかわらず有効であり、精神作用以外の奏功機序が考えられています。うつに用いられる量の半量程度で有効とされています。
- 1.持続性知覚性姿勢誘発めまい(Persistent Postural-Perceptual Dizziness:PPPD)の診断基準(Barany Society:J Vestib Res 27:191-208,2017).Equilibrium Res 2019;78(3):228-229.
2.堀井新:専門医通信 持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD)の診断と治療.日本耳鼻咽喉科学会会報 2020;123(2):170-172.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka/123/2/123_170/_pdf(2024.8.2参照)
3.Yagi C,Morita Y,Kitazawa M,et al.:A validated questionnaire to assess the severity of persistent postural-perceptual dizziness(PPPD):The Niigata PPPD Questionnaire(NPQ).Otol Neurotol 2019;40(7):e747-e752.
この記事は『エキスパートナース』2021年1月号の記事を再構成したものです。
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