在宅ケアの新しいシステム「テレナーシング」の概念とその普及背景

おさえておきたいこと

テレナーシングの実施に必要なこと
●離れたところにいる療養者にケアを提供するための判断樹づくりや、 情報通信機器を取り扱うスキルが求められる
● 遠隔でも療養者から健康の相談をしてもらえるような信頼関係の構築が必要である

遠隔でのモニタリングや、 テレビ電話を介した観察・メンタリングを行う

 慢性疾患在宅療養者へのテレナーシングでは、心身の状態の変化をとらえて看護相談や保健指導を行うために、遠隔モニタリンを併用するとよいでしょう。

 モニタリングする情報は、主疾患や病状によって異なります。 バイタルサインなどに加え、病状の変化をとらえるための疾患特異的な項目のモニタリングも必要です。例えば、下記などがそれにあたります。

<疾患ごとの特異的なモニタリング項目>

慢性呼吸不全
●動脈血酸素飽和度
●息切れの程度  など
糖尿病
●歩数 ●体重 ●血糖値  など
慢性腎不全・慢性心不全
●体重
●動悸・浮腫の有無  など

 このほか全身状態を判断するためには、食欲、排泄、痛み、心理的状態などから、安定性や変化をとらえ、テレビ電話を介した看護観察と遠隔コミュニケーションによるメンタリングを図ります。

遠隔でも信頼関係を成立させるための看護と情報通信機器を扱うスキルが必要

 テレナーシングは、情報通信機器を介して行うため、スキルが必要です。テレナースと療養者・家族との間に、信頼関係を成立させることが大切です。そのためには、対象者の反応に合わせ、説明を正しく、丁寧に、明確に行い、対象者を尊重する姿勢が必要です。

 声のトーンは低く・はっきり・ゆっくりと話します。双方が同時に話すと音声が伝わりませんので、会話は順番にもつ必要があります。また、情報セキュリティの基本的知識も必要です。

 テレナースはよきメンターとして、親身に相談にのる姿勢が基本です。例えば、運動の継続を目標とする場合、日々の歩数値をともにモニタリングし、振り返ります。運動の達成を褒め、励ますことが大切です。

メンタリングやフィードバックも大事

 また目標の達成が難しかった場合には、次の方法をともに考えることが重要です。テレナーシングからの途中脱落を防ぐうえで、テレナースによるメンタリングやフィードバックが大切であることが知られていますので、継続的なテレメンタリングは重要な機能です。

テレナーシングは医師のほか、訪問看護師、薬剤師、介護支援専門員など療養者に応じた多職種チームの連携により行うことが大切です。

事例紹介:85歳男性(腎機能低下)の場合

 筆者らは、慢性疾患在宅療養者を対象とした在宅モニタリングに基づくテレナーシングを提供しています。 日々のモニタリング項目は、息切れなど、対象に応じて検討します(図1)。

図1 モニタリング(問診)項目の例

 対象者にはタブレットPC、計測用具一式を貸与し、血圧をはじめ、画面に表示される質問に、絵柄の回答選択肢からその日の体調をタッチ回答してもらい、1日1回の情報送信を受けています(図2)。

  テレナースは受信したデータをトリアージし、テレナーシングの判断樹*に沿って看護・保健指導を提供します。これにより、疾患の増悪予防、自己健康管理意識の向上と安心感をもたらしています。

*【判断樹】判断の過程を、段階ごとに樹枝のように示した図のこと。

図2 血圧などの自己測定と入力・送信の場面

 腎機能低下の85歳・男性にテレナーシングを開始し、導入初期から脈拍値の低下傾向が観察されていた例がありました。2週目に脈拍値40回/分とのデータが受信されたため、ただちに本人に電話で様子を確認しました。

 「調子が悪い」と話されたため、かかりつけ医療機関への受診を勧めました。A氏は独居で介護保険制度による訪問介護を受けていたため、ホームヘルパーが受診に同行し、入院となりました。

 ペースメーカーが挿入され、血液透析も開始となり、退院後は再びテレナーシングを利用されています。脈拍値は安定し、落ち着いた生活が継続されていることを確認しています。

 テレナーシングを看護教育カリキュラムに取り入れている大学は非常に少数で、現場の看護職にはまだ普及していない現状です。 しかし、ICTを活用したテレナーシングは、どこで暮らす人にも健康支援の機会を提供でき、安心感を向上させ、病状の増悪を防いで生活の質を維持することが可能となります。これからの活用を期待しています。

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この記事は『エキスパートナース』2022年4月号の記事を再構成したものです。
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