ぼくらの医療・医学は自然科学の領域に属します(厳密には属することが多いです)。自然科学は分類、分割が大好きです。ものごとを分割して、それに名前をつけていくんですが、ここでも分割する「科学的基準」や「真理」はなくて、構造主義的恣意性に、特に根拠なく決められているんですね。
 
 虹の色は何色でしょう?
 
と聞くと、皆さん「7色」と答えます。でも、あれが「7」である科学的根拠や真理はありません。あれを8色と呼んだっていいですし、144色と呼んだって間違いではありません。線引きをどこにするかはわ
れわれの自由、恣意性に基づいているのです。
 
 病気の診断もそうですね。随時血糖値200mg/dL以上を糖尿病の診断基準(の一部)にしていますが、あれが199であってはダメな科学的真理はありません。203であってはいけないという真理もありません。「ま、きりがいいところで200ってことにしとこうや」とエライ先生たちがシャンシャンで決めたんです。随時血糖値が201の人と、199の人は、糖尿病をもっている病人とそうでない人、という「別物」と扱うか。あるいは「同じような人」と扱うか。それを決めるのも恣意性のなす業です。
 
 そういえば、ぼくは医療・医学を自然科学に属すると言いましたが、それだって恣意性のなせる業で、医療・医学の多くの領域はむしろ社会科学に属するものともいえます。ていうか、そもそも自然科学とか社会科学って分け方すら恣意的な決めつけにすぎないんです(間違いという意味ではないことに注意しましょう)。
 
 ということで、医者であるぼくとナースであるあなたが「別の職種、あかの他人」と認識するか、「同じ医療者」と認識するかも恣意的な問題にすぎません。どちらが正しい、間違っているではないんです。

 ただ、「同じ医療者」と認識したほうが、都合がよいとぼくは思います。だって、ぼくらの目標は同じ「患者さんの健康としあわせ」なのですから。立っている場所は違うかもしれませんが、目指しているところは同じです。同じであるべきです。医者とナースが別々の目標に向かって仕事していたら、患者さんに健康としあわせがやってくる可能性はきわめて低くなるでしょう