認知症の人のBPSDの理解を深め、日常生活をアセスメントするには、日常生活をどのようにとらえるとよいのでしょうか。作業療法士が行うBPSDを伴う認知症の人の生活アセスメントを中心にお伝えします。

日常生活は作業で満たされている

 一般社団法人日本作業療法士協会の定義によると、「作業には、日常生活活動、家事、仕事、趣味、遊び、対人交流、休養など、人が営む生活行為と、それを行うのに必要な心身の活動が含まれる」、また、「作業には、人々ができるようになりたいこと、できる必要があること、できることが期待されていることなど、個別的な目的や価値が含まれる」とされています1

 すなわち、作業療法において、日常生活は作業(occupation)で満たされていると捉えられています。その作業には、人が何かをできるようになりたいという願望や他者からの期待や役割、また、その作業に対する個人にとっての重要性や意味などが含まれています

認知症の人の日常生活と作業の意味

 認知症の人の日常生活を観察する際に、先に述べた類型による行動パターンを認識することは大切です(第1回参照)。さらに重要なことは、認知症という疾患の特性だけで日常生活をみるのではなく、その人という個別性を認識しアセスメントすることだと思われます。そこで大切なことは、認知症の人を、作業をする人としてとらえる着眼点です。

 つまり、人は、本人が興味をもっていたり、やりたいと思うことや社会的役割、その行動を行おうとする意味が含まれていること(作業)を求めると思われます。

 例えば、認知症の人に朝食の介助をしようとしたとき、急に立ち上がり、不穏になり、何かを探し求めるように歩き出すかもしれません。介助者は食事のため、いすに座るよう促しますが、認知症の人は何かを訴えながら介助者に暴力を振るいながら抵抗をするかもしれません。

 私たちは、この状況をどう捉えるでしょうか。「中核症状に伴うBPSDの出現があるため、食事の介助を拒否した」と記録を残すでしょうか。現象としての記録としてはよいかもしれませんが、アセスメントとしては不足しているように思います。

 アセスメントには、認知症の人がなぜそのような行動をとったかをリーズニングした結果を示すほうがよいと思われます。じつはこの方は、これまで食事の前に必ず歯をみがく習慣がありました。介助者が歯みがきなしに食事を提供したため、歯ブラシを探しに席を立ったのかもしれません。

 また、高齢者施設のホールで認知症の人が昼食を食べてくれない場合があります。施設に入居して間もないアルツハイマー型認知症の女性高齢者は、4人掛けのテーブルで昼食をとってくれないのです。介護者が促しても拒否をします。非常勤の作業療法士(OT)の私は、ある方法を試みました。それは、居室で、男性の介護者に一緒に食事をとってもらうというものでした。

 するとのその方は、男性介護者が食事を終えた後、自ら箸を持ち、勢いよく食事をとって完食し、食器を片づけ始めました。OTは事前に、この方の食事のとり方を家族に確認しました。結婚後は、厳格な夫がお膳で食事を食べ終わるのを部屋の隅でずっと待っていて、無言で部屋を立ち去る夫を見送った後、食べ終わったお膳を片づけ、台所で急いで自分の食事をとる、そういう習慣のあった方でした。

 そのため、集団で皆が食事をしているときに、男性より先に食べることはできなかったのかもしれません。そういう習慣が脳に刻み込まれていた可能性があります。もしも、これまでの日常生活の様式をリーズニングされていなければ、この方はBPSDとして食事介助を拒否する、と記録に残されるだけだったかもしれません

1.日本作業療法士協会ホームページ:日本作業療法士協会 作業療法の定義.
https://www.jaot.or.jp/about/definition/(2024.3.10アクセス)

認知症の人の日常生活のアセスメントってどうするの?【最終回】日常生活をアセスメントするには具体的にどうする?(5月11日配信予定)

この記事は『エキスパートナース』2020年1月号特集を再構成したものです。
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