Aさんの表出する今の気がかり
すると、Aさんは大きくうなずき、「あとどれくらい元気でいられるのか……って。あの、今日はいつもの先生と違っていて、その先生が“手術は意味がなかった”って。悪い状態は手術の前と一緒だって言われたんです……」「そうか、と思って……。今後のこともあるので、子どものこともあるし、あとどれくらい元気なのかなって思って」と静かに、暗い表情で語りました。
Aさんは、代診の医師に“肝臓を切除した手術に効果がなかった”という思いがけない悪い知らせを受けて落胆し、死を意識し、動揺していました。
その一方で、残される家族に想いを馳せて、予後について理解したうえで今後の生き方を考えていこうとしておられ、問題に焦点を当てたコーピング(対処方法)だと思いました。
私は、Aさんが代診の医師から受けた説明で落胆しているつらい気持ちに共感しながら、点滴準備の作業を一時止めて、「お子さんもいらっしゃるし、いろいろ考えますよね……」と応じました。
そして、「今の病状と今後の見通しについて、主治医の先生からお話を聞いてみたい、というお気持ちでしょうか?」と、予後告知の部分を含めた病状説明の希望についてうかがうと、Aさんはうなずき、「でもね、先生、いつも忙しそうだから……」と寂しそうな表情になりました。
私は、Aさんの希望があれば、診察の際に私が同席してAさんを支援できることを説明しました。すると、Aさんは驚きの表情を見せて「そういうこと、できるんですか? お願いしたいです」とうれしそうな表情になりました。
「それじゃ先生に聞いてみようかしら。私、じつは家族で大きな旅行を計画しているんですけど、どうでしょうか。家族が計画してくれたんです。最後になるかもしれないからって……」と話していました。私は、「素敵ですね。ぜひ先生に相談してみましょう」と応じ、旅行の計画を支持しました。
Aさんが旅行を「最後の旅行」と表現したことから、残された時間を考えて、死に向き合い、受け止めようとしていることを感じました。また、Aさんが家族に大切にされており、現状を共有できていると思いました。