痛みからくる行動様式とその影響

 そこでAさんに対し、「今の時点では家に帰れるかまだわかりませんが、Aさんが思っていることを家族の方にも伝えて、私たちと一緒に、どうすればいいか考えていきませんか?」と伝えたところ、Aさんは「そんなわがままを言っていいのかな……? でもそうですね。息子が次に病院に来る日に、自分の思いを伝えてみます」と言いました。

 また、Aさんは日中の多くの時間を車椅子に座って過ごしており、あまりベッドに寝ようとしませんでした。その理由をAさんに尋ねたところ、「ベッドから起きたり寝たりするときの痛みが特にひどくて、車椅子に座ったままのほうが楽なんですよ」と答えてくれました。
 Aさんはベッドから無理のある姿勢で起き上がっているため、このような無理な動作で動いていることや、適度な休息をとれていないことが、腰痛を悪化させているのだろうと考えました。

目標のすり合わせとセルフケア能力の向上をめざして

 近日中にAさんのご家族が来院する予定があったため、Aさんはそのときに、“家族に自分の気持ちを伝える”と言いました。そこで私は担当のソーシャルワーカーに連絡し、その日にAさんと家族を交えて面談を行うように調整しました。

 ご家族が来院した際、Aさんは「家に帰りたい」という思いを伝えましたが、ご家族は「私が仕事が忙しくて面倒を見る時間があまりない。だから施設のほうが安心なんですが、どうなんでしょうかね?」と迷っているようでした。

 Aさんは今まで介護保険を利用したことがなく、介護保険などの制度について知識が少ないと考えられたため、私はソーシャルワーカーとともに退院後に活用可能な社会資源について説明したうえで、Aさんがどこまで自分のことができるようになればよいのか、またどのような社会資源を活用すれば自宅で生活を送っていくことが可能なのか、Aさん・ご家族とともに一緒に考えました。

  Aさんは、「家に帰るなら、トイレぐらいまで歩けるようにならないと困る」「料理もできないと困るけれど、買いものはどうしよう」などど、しだいに自分自身の生活のことを具体的に考えるようになりました。

 またご家族もその様子を見て、「本人ががんばる気があるならば、意思を尊重しようと思います」と、自宅への退院を目標にすることを受け入れてくれました。

 また、Aさんの痛みに対するセルフケア能力を高めるために、理学療法士と作業療法士に協力を依頼し、安楽な動作の方法を検討して、Aさんに伝えました。看護師もその内容を共有し、介助に入るなかで繰り返し動作の練習を実施しました。

 その際、“以前よりもよくなった部分”“Aさんが努力していること”などを観察してAさんにフィードバックしていくように、スタッフ全体でかかわり方を統一するようにしていきました。
 いつしかAさんの腰痛の訴えは少なくなり、理学療法や作業療法を拒否することもなくなりました。

 Aさんは「訓練の時間以外にも、歩く訓練をしたい」と言い、トイレや歯磨きの際に看護師といっしょに歩行練習をするなど、訓練に意欲的に取り組むようになりました。

 Aさんは杖などの歩行補助具を使用すれば安定して歩けるようになり、再び自宅で暮らすことに自信を深め、希望通り、自宅に退院することが決まりました

共有したいケア実践事例【第12回】慢性的な腰の痛みを訴えるパーキンソン病の患者さんの事例をめぐるQ&A

この記事は『エキスパートナース』2016年4月号特集を再構成したものです。
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