薬を飲まない”に関連するさまざまな要因

 この日のことを振り返ると、Aくんにとっては、看護師が来るたびに内服を促され、嫌なこととずっと向き合わなければならない状況になっていることに気づきました。

 内服できないまま午前中が過ぎ、結局、登校できなかったことも問題です。小学生になったことを機に、入院生活においては1日の生活リズムをつけていくことが必要だと考えました。それによって「楽しい時間」と「嫌なことをがんばる時間」とを区別でき、楽しい時間が確保されることが必要だと考えました。

 また、Aくんが入院生活の中にも楽しみを見つけることができれば、ストレス対処が“人を叩く”という不適切な方法ではなく、“遊びのなかでの昇華”へと変化するのではないかと考えました。

 これから長く続く治療を乗り越えていかなければならないAくんにとっては、入院生活のなかに安全基地を見いだすこと、つまり、何があっても自分を受け止めてくれる人、がんばっている自分を認めてくれる人がいる、という実感をもてることが不可欠です。

 そしてその存在になりうるのは母親と、病院の中で決して子どもに痛いことをしない、子どもの療養を支援する存在(子ども療養支援士、child care support〈CCS〉)、そして院内学級の教諭であろうと思いました。

 Aくんが内服を嫌がる理由として、味が苦手ということもありますが、内服して嘔吐した経験から、「薬を飲んだら吐く」と思い込んでしまい、なかなか口に入れられないのではないかと考えました。

 また、痛みを伴う処置への抵抗から、自分が入院して治療を受けなければならない理由をどのように理解しているのだろうか、という疑問も湧きました。
 内服ができないことだけをAくんの課題としてとらえるのではなく、今後の治療にAくん自身が主体的に取り組み、達成感を感じられるように支援することが重要であると考えました。

支援方法を統一するためのカンファレンス

 そのうえでは、Aくん自身が治療の意味を理解できるように、「体にバイキンがいる」というあいまいな説明ではなく、病名と治療予定を再度、医師から説明することも必要だと考えました。
 そこで、医師・看護師・院内学級教諭・CCS(Bさん)ほか医療チームで話し合いを行い、以下の介入を提案しました。

①バクタの内服時刻を決め、それ以外の時間は内服の話題を出さず、登校や遊びを促し、Aくんが楽しいと思える時間をつくる。そして、Aくんが院内学級教諭やCCSと関係を築けるようにする。

②再度、病気とこれからの治療の予定を医師より説明し、入院治療や内服の意味について、Aくんなりに理解できるようにする。

 ①については12時を内服の時間と決め、その時間に担当看護師がAくんとのかかわりに集中できるように、業務調整を行いました。
 そして、院内学級教諭とCCSに、Aくんとの関係づくりを進めてもらいました。また、Aくんが時計を読めるようになって、時間の感覚がつくように、時計を用意してもらうことを母親に依頼しました。

 ②については、医師より病名と、それが“がん”というものであること、今後の治療予定について、改めてAくんに説明しました。 このとき、Aくんは「嫌だ! 聞きたくない」と言ったものの、まったく聞いていないわけではありませんでした。