今年5月に発売した『今だからこそ知りたい 臨床で倫理的問題にどう向き合うか』(ウィリアムソン彰子 編・神戸大学医学部附属病院看護部 著、照林社)は、日ごろの看護業務や、多職種とのやりとりで感じる「これでいいのだろうか?」というモヤモヤの本質である倫理的問題を考える1冊です。今回は、特別に試し読み記事を全3回でお届けします。 
 第2回目は、倫理カンファレンスの進め方を解説した一部をご紹介します。書籍の試し読みはこちらからどうぞ。

第1回 倫理的問題は身近なところにある
第3回 病気を告げる場面での倫理的調整

倫理カンファレンスの「目的」を理解する

 倫理カンファレンスは、倫理的問題を未然に防ぐこと、あるいは、すでに発生している倫理的問題への対応を検討することを目的として開催するものです。

 倫理的問題が「生じる前」に、あるいはすでに問題が生じている場合は「重大な問題になる前」に話し合い、対応を検討することが重要です。そのためには、看護師の早期の気づき、すなわち倫理的感受性を高めることが大切です。

多職種をつなぐ看護師は、倫理カンファレンスの要 

 看護師には、以下の2 つの役割があります1

 ①患者の代弁者・権利の擁護者として、患者と医療チームとの調整をする役割
 ②医療チームのメンバーが他職種の専門性を十分に理解して、良好なコミュニケーションを図れるように調整する役割

 すなわち、看護師は、倫理カンファレンスにおいても、職種間のコミュニケーションを促進しながら、合意形成に向けて話し合いを進めていく中心的な役割を担っています。

 それゆえに、看護師の気づきから倫理カンファレンスが開かれることが多いと考えられます。

「合意形成=論破」ではない

 倫理カンファレンスの最終目標は「患者にとって最善の医療・ケアをめざすこと」です。そのためには、まず、相手の意見を否定・批判せずに受け入れることが大前提となります。

 他者の考えを聴き、さまざまな価値観を知ることで、自身がもつ価値観に気づくことが重要です。自身の考え方の癖、偏りを知ることが“ 他者の考えを聴こう” “ もっと全体像を見て考え「合意形成=論破」ではないよう” という変化につながります。

 合意形成までのプロセスは、決して容易ではありません。患者を取り巻く環境が複雑な場合も多いです。かかわる人々が互いの価値観を理解し、“ 患者の最善とは何か” を検討することが重要です。だからこそ、自身の意見を感情的ではなく、論理的に述べることが大切です。

臨床でよくみる具体的な場面の例

 医師が、家族だけに「療養型病院に転院すること」を説明し同意を得ました。しかし、看護師が「患者は自宅に帰りたいのでは?」と感じ、倫理カンファレンスを行った結果、医師が患者に「療養型病院に転院すること」を説明し、患者が同意して転院となりました。結果だけみれば同じですが、患者の自律が尊重されているかが重要なのです。

倫理カンファレンスの「グランドルール」を共有する

 効果的な倫理カンファレンスにするためには、グランドルールを取り決め、自由に発言できる安心・安全な場をつくることが重要です。グランドルールの例は下記のとおりです。

  • 倫理カンファレンスには主体的に参加しましょう
  • 他者の意見を非難・否定しないようにしましょう
  • 他者の話をさえぎらず、最後までしっかり聴きましょう
  • 建設的な意見を述べましょう
  • 時間を守り、進行に協力しましょう

 特に、多職種で話し合う際には、ルールのすり合わせが必須です。カンファレンスの前に、ファシリテーターがルールを説明しましょう。

 カンファレンスは短時間で行うことも多いです。「意見は簡潔に述べましょう」など、状況に合わせてルールを検討するのもよいでしょう。

参加者全員が「発言しやすい場」をつくる

 倫理的問題に、絶対的な正解はありません。「正しい意見を述べなくては」と気負うことなく、メンバーの一員として主体的に意見を述べましょう。看護師が、日ごろのケアをとおして、患者の思いや表情から気づいたことや、家族とのかかわりから感じたことが、倫理カンファレンスでとても重要な情報となることも、少なくありません。

 そして、否定・非難することなく相手の話も聴きましょう。参加者の職位や先輩・後輩という上下関係に影響されない自由に発言できる環境づくりも大切です。

みんなが主体的に発言できるカンファレンス

 倫理カンファレンスのファシリテーターを担当した人から、ときどき「消極的なスタッフがほとんど発言してくれず、困っている」という悩みが寄せられます。
 参加しているスタッフが消極的になってしまう原因として、「このタイミングで発言していいのか躊躇している間に、発言できずに終わってしまった」場合や、「その事例にあまりかかわっていないので発言しづらい」場合などが考えられます。このような場合、ファシリテーターが、まだ発言していない参加者に対して「いろいろな意見が出ましたが、意見や感想はありますか?」など強制的にならないように声をかけるようにするとよいでしょう。
 もし、あなたが、倫理カンファレンスに苦手意識があり、「どう発言すればいいかわからない」と悩んでいるなら、倫理カンファレンスでは、他者の考えを聴くことで、自身がどんな価値観をもっているのか気づくことも重要なポイントである、ということを知ってほしいと思います。「みなさんの意見を聴き、○○の気づきがありました」などと倫理カンファレンスのなかで述べてみてもよいと思います。

つづきは書籍で!

今だからこそ知りたい  臨床で倫理的問題にどう向き合うか
ウィリアムソン彰子 編、神戸大学医学部附属病院看護部 著
B5・128ページ・定価 2,420円(税込)
照林社

1.秋元典子:看護のアイデンティティ.ライフサポート社,神奈川,2021:146.