日常的に行う末梢留置カテーテルの穿刺や管理について、それらを「なぜ行うのか」を解説していく連載。今回は血管痛を防ぐための薬剤の投与方法や、末梢からの投与に注意が必要な薬剤を紹介します。
血管痛を防ぐためには、「等張液に近い浸透圧の薬剤」を「緩徐」に投与する
●「高浸透圧」「血液の範囲を超えるpH」の薬剤を末梢から投与すると静脈炎を起こし、血管外に漏出して細胞を傷害するため
血液の範囲を越える pH・高浸透圧の薬剤は、静脈炎・血管外漏出を引き起こす恐れ
私たちの血液はpH7.35~7.45、浸透圧は270~ 295mOsm/L*1が基準値となります。この値より酸性やアルカリ性、あるいは高浸透圧の薬剤ほど、静脈投与する際に末梢ではなく、血液量の多い中心静脈が適しています。
末梢静脈で投与可能な主な高カロリー製剤は、最大ブドウ糖液濃度は10~12%、アミノ酸液は10%程度であると考えられます。
*1【mOsm/L】=浸透圧の単位。溶液1Lあたりに含まれる粒子の数を表している。
私たちの身体を構成する細胞も、血液同様のpH・浸透圧であるため、上記の範囲を逸脱するpHや高浸透圧の薬剤が接すると細胞は傷害を受けます。
末梢血管では希釈する血液量が少ないため、血管内皮細胞が直接傷害され、化学的静脈炎を起こし、血管外に漏出した際には漏出周囲の細胞傷害を引き起こします。薬剤投与中に患者さんが訴える痛みの原因は、この2つです。それぞれの特徴について表11に示します。
表1 化学的静脈炎と血管外漏出の特徴

末梢からの投与に注意が必要な薬剤は多くあり、代表的なものを下記2に示します。臨床で使用する薬剤は多岐にわたるため、不明な場合は各施設の薬剤部に確認してから投与することが大切です。
末梢からの投与に注意が必要な主な製剤(抗がん剤は除く)
強アルカリ製剤
<抗てんかん薬>
一般名:フェニトインナトリウム
商品名(例):アレビアチン®注
●他剤との混合禁止
●生理食塩水または蒸留水で希釈(4倍まで)
●希釈後は1時間以内に使用
●1分間に1mLを超えない速度で緩徐に投与
<全身麻酔薬>
一般名:チオペンタールナトリウム
商品名(例):ラボナール®注射用
●蒸留水で希釈
●呼吸抑制を起こすことがあるため緩徐に投与
<抗ウイルス薬>
一般名:アシクロビル
商品名(例):ゾビラックス®点滴静注用、アシクロビル点滴静注液「日医工」
●組織傷害性がある
●単独投与とする
<アシドーシス補正>
一般名:炭酸水素ナトリウム
商品名(例):メイロン®静注、炭酸水素Na静注
●Caイオン含有製剤との混合禁止
血管収縮薬
<ショック時など>
一般名:アドレナリン
商品名(例):ボスミン®注
一般名:ノルアドレナリン
商品名(例):ノルアドリナリン®注
<心不全など>
一般名:ドパミン塩酸塩
商品名(例):イノバン®注、ドパミン塩酸塩点滴静注液「NIG」
一般名:ドブタミン塩酸塩
商品名(例):ドブタミン、ドブタミン持続静注シリンジ
●基本的に循環動態の変動をきたしやすいため、確実な投与を目的に末梢ではなく中心静脈投与が望ましい
●酸性薬剤である
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